日本の基幹産業として、世界で多くのシェアを獲得し続けてきた自動車産業は今、大きな変革期を迎えている。その大きな変革の一つが、地球温暖化問題にともなう環境対策の一環として推進されている、従来のガソリン車からモーターで駆動する電気自動車(EV)への転換だ。ところが、世界各国の自動車メーカーがEVへ順調にシフトしていく中、日本の自動車メーカーのEV化の勢いは芳しくない。
アメリカのメディアサイト「EV Sales」が発表した、モーター駆動で走行する車両のメーカー別販売台数ランキングにおいても、アメリカのテスラやドイツのフォルクスワーゲンなどの各国代表する自動車メーカーが居並ぶ中、残念ながら日本企業はTOP10から外れている。国単位の補助金でEV市場を拡大している欧州勢や中国勢に弾き出された形だ。
しかし、そんな逆風が吹く自動車業界のEV市場で、勢いを拡大している「自動車メーカー以外」の日本企業もある。例えば、大手繊維メーカーの帝人は、オーストラリアのアプライドEV社と、低速EVのプロトタイプを共同開発している。帝人のポリカーボネート樹脂や複合繊維が、熱のマネジメントや吸音性において評価されているのだ。2019年から取り組んでおり、2022年後半の実用化を目指しているという。
また、昨年の家電IT見本市において発表されたEV「VISION-S」も記憶に新しい、大手電機メーカーのソニーの業界参入も注目されている。同社は「これからの『移動』を考える」というテーマのもと、臨場感の高い音響システムや第5世代通信(5G)への接続機能など、EVを構成する要素技術に対して本格展開していく構えを見せている。既にイギリスの通信大手ボーダフォン・グループのドイツ法人ボーダフォン・ジャーマニーと、5Gを活用した走行試験が開始されており、今後の展開にも目が離せない。
そして、EV車の要となる半導体関連分野では日本企業の活躍が目覚ましい。EV開発の更なる発展のカギは、航続距離の向上と充電時間の短縮にある。そして、それらの両立には電池電圧の向上が必要不可欠だ。海外を中心にEVの電池電圧を現状の2倍となる800V以上に高める動きがあり、そこで期待されているのが、高電圧動作が可能で圧倒的にエネルギー損失が少ないパワー半導体、SiC(炭化ケイ素)半導体である。今後のEVにおいては、従来のシリコンデバイスから、高耐圧かつ低損失を実現するSiCデバイスへの置き換えが進むことは必至だ。そんな中、特許分析のパテント・リザルトが発表した、SiC半導体関連技術における評価ランキングにおいて、上位5社中4社が日本企業だとわかった。日本の電子部品メーカー・ロームがアメリカの半導体メーカーCREEに次ぐ第2位に、住友電気工業が第3位にランクインしているのだ。
2010年に世界で初めてSiC MOSFETの量産を開始して以来、ロームはSiCデバイス開発で業界をリードし続けている企業だ。とくに電力損失を低減する高度な技術力は世界的にも評価が高く、国内のEVメーカーだけでなく、欧州や中国などのEV関連企業との提携や共同開発もさかんに行われている。SiCデバイスは今後、自動車業界のみならず、産業機器市場における省エネルギー化のキーデバイスとして大きな期待を寄せられていることからも、今後の飛躍的な成長が楽しみだ。
戦後日本で自動車産業が成功した要因の一つには、自動車メーカーを頂点として、下請け会社、孫請け会社とつながって製品を生み出す「縦のつながり」があった。しかし、EVが軸となるこれからの自動車産業においては、国を越えた企業同士が手を携え、それぞれの得意分野を活かした開発体制や生産システムを棲み分けるグローバルな「横のつながり」への重要性が増してくるのではないか。日本の自動車メーカーが巻き返しを図るためには、今までのビジネスモデルを新たな視点で見直す必要があるのかも知れない。 (編集担当:今井慎太郎)