日々深刻化する環境問題は、経済にも大きな影響を及ぼす。ほとんどの経済活動が自然資源や生態系の恵みを利用して成り立っている以上、多くの企業にとって、環境問題への取り組みは慈善事業ではなく、自社の企業活動を将来にわたって存続させるための、喫緊の課題だ。
そんな中、日本でも SBTi(Science Based Targets initiative)の認定を目指す企業が増えている。環境省の定義によると『Science Based Targetsは、パリ協定(世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準(Well Below 2℃)に抑え、また1.5℃に抑えることを目指すもの)が求める水準と整合した、5年~15年先を目標年として企業が設定する、温室効果ガス排出削減目標のこと』だ。
2021年7月1日時点でSBTiに認定されている日本企業は120社で、その後も認定取得を目指す企業は増え続けている。
ただ、2019年4月にルールが改訂され、それまでの「世界の気温上昇を産業革命前より2℃程度に制限する水準」と整合する目標(2℃レベルの目標)は、2019年10月以降、認定の対象外となってしまった。新規だけでなく、これまで認定されていた企業についても、「2℃を大幅に下回る」または「1.5℃」レベルでの目標再設定が2025年から義務付けられたので、ハードルは高くなっている。しかし、より厳格な基準で認定が行われることは、企業が持続可能な社会の実現へ積極的に関わることを促し、社会からの信頼や価値の向上にもつながるはずだ。
現在、日本の企業では、ファスニング事業とアルミ建材メーカーのYKK株式会社や、パーティション(間仕切)の専業メーカーとしてトップシェアを誇るコマニー株式会社、ファッションビルの運営やクレジットカード事業を行う株式会社丸井グループ、食品メーカーの味の素株式会社のほか、中小企業でも、再生可能エネルギー事業を営む株式会社ジェネックスなどが新基準での認定を受けている。
直近では、京都市に本社を置く半導体メーカーのローム株式会社も認定を取得している。
同社では、商品を通じた環境貢献のみならず、その生産工程など事業活動全般における環境負荷軽減も重要と認識し、2021年4月には「環境ビジョン2050」を策定。国内外のグループが一体となって、再生可能エネルギーの利用や環境配慮型の生産設備導入を積極的に進めて環境経営を推進し、「環境負荷ゼロ」に挑戦している。2021年9月には、2030 年までの温室効果ガス排出削減目標を従来の2018年度比30%削減から50.5%削減へと引き上げており、この目標が今回、産業革命前と比較して気温上昇を「1.5℃未満に抑える水準と整合した目標」として、SBTiに認定された。
他にも、多くの企業が新基準での認定取得に動き始めている。しかし、今はまだ、それらの取り組みが“当たり前”になっていないことも事実だ。先進企業に続いて認定を受ける企業がますます増えて、活動が加速し、やがてニュースとして取り上げられなくなるほど、SBTiから認定を受けていることが企業の常識レベルになれば、日本の経済活動も環境課題解決との結びつきが強くなり、持続可能な社会へ向けて大きく前進できるのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)