国土交通省の「建築着工統計」によれば、貸家の新設着工戸数は2016年をピークに減少傾向が続いてきた。この背景には、人口減少で貸出対象が縮小している地方の金融機関を中心に積極的な個人向け不動産融資が行われアパート建築ブームが起こったものの、空き室率が上昇、不良債権化リスクが高まり、また金融庁からの指導もあり不動産融資は一転して縮小に向かったという経緯がある。しかし、都市中心部での貸家需要は低迷しておらず、また環境問題に配慮し、断熱性、省エネに優れたZEH(ゼッチ:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)仕様の賃貸住宅など新たな需要を開拓する動きも出てきており、21年度の貸家新設着工戸数は前年度を上回る見込みだ。
2月22日に矢野経済研究所が「賃貸住宅市場に関する調査(2021年)」の結果レポートを公表しているが、これによれば、21年度の国内賃貸住宅市場規模は新設着工戸数ベースで33万戸、前年度の30.3万戸と比べ108.9%の増加となる予測で、16年度以来5年ぶりの増加となる見込みだ。20年度は新型コロナの影響で着工戸数は大きく落ち込んでおり、その反動という側面もあり、コロナ前19年度の33.5万戸までには至らなかったものの、レポートでは賃貸住宅市場の持ち直しの動きと見ている。従来からの節税や資産活用を目的とした賃貸住宅経営に対する個人投資家の意欲も底堅く、主要な賃貸住宅事業者をはじめとして需要層への最適な資産活用の提案が行われており、今後は持ち直し傾向で推移するとレポートは見込んでいる。
新たな需要発掘として注目されているのが、環境問題への取組みが世界的に進む中で環境への負荷軽減に配慮したZEH仕様の賃貸住宅である。政府も「2020年までにZEHを標準的な新築住宅に」という目標を掲げてきたこともあり、また断熱性に優れ省エネを実現したZEH仕様の賃貸住宅は高い入居需要が見込まれ、今後はZEH仕様の供給割合を増やす方向で推移すると見込まれる。環境への負荷軽減などの目的や明確なビジョンを持つZEH賃貸住宅は旧来型の物件とも差別化でき「長期間に渡る賃貸住宅経営の中で将来的な入居率に大きな差異が生じることにもなる可能性が高い」とレポートは指摘している。こうした新しい世代の賃貸住宅への建て替え需要で賃貸住宅市場は持ち直しの方向で推移する見込みだ。(編集担当:久保田雄城)