グローバル化の進んだ現代社会では、リスクもまた、世界全体で共有することになる。気候変動や脱炭素と並び、近年注目を集めているのが、生物の多様性だ。2020年1月、世界経済フォーラム(WEF)は、世界のGDPの半分以上が生物多様性に依存しており、人類史上類を見ない生物多様性の喪失により、世界の経済価値がリスクにさらされている点を指摘している。企業経営に対し、新たな問題が突きつけられている。
昨今、「環境(Environment)」、「社会(Social)」、「ガバナンス(Governance)」の頭文字を取った「ESG」を意識した経営に、生物多様性の問題が追加されつつある。次から次へと課題が発生する中、戦略を立てる企業が重要視しているのが、人材のダイバーシティ(多様性)だ。あらゆる分野の人材を戦略会議に組み込んで、多角的な観点から課題に取り組む企業が増えている。
例えば、電子部品メーカーのロームは、2025年をターゲットにした中期経営計画で、財務目標以外に非財務目標としてESGに関する経営基盤強化を掲げている。2050年に向け、温室効果ガス排出量実質ゼロ、ゼロエミッションなど環境保全のほか、ダイバーシティ推進やガバナンス改革にも取り組む。2022年3月に発表した新任取締役候補も外国籍および女性の候補者であり、これらを意識した内容だ。6月の株主総会にて承認されれば、金融サービス・PayPalの日本事業統括責任者と、サステナビリティ経営に関するアドバイザリー企業の代表取締役の両者が、取締役として新たに加わる。これにより社外取締役が過半数を超え、ガバナンス強化が図られると共に、両者の多様かつ豊富な経験や知識が、同社が推進するESG経営に活かされることが期待できる。
国内化学企業の日本ペイントホールディングスの取締役会は、非常にバラエティに富んでいる。「事業会社経営経験」「グローバル経験」「M&A 経験」の3項目、スキルとして「ファイナンス」「法務」「IT/デジタル」「製造/技術/研究開発」の4項目を特定し、この7項目がバランス良く網羅されるような取締役会構成を目指しており、より専門性の高い各委員会においても適切な取締役を選定している。年齢、国籍、性別などの特定の属性にこだわることなく、ダイバーシティの確保・拡充を図っている。
大手広告代理店の株式会社博報堂DYホールディングスは、企業単位の連携を試みている。2019年に発足した「博報堂SDGsプロジェクト」において、クライアント企業のESG経営支援に携わり、数多くの実績を積み重ねた。更に国内グループ企業および海外の専門企業と連携し、統合的なESG経営支援を行うサービス「ESGトランスフォーメーション」を開発した。サービスと共に、企業単位で人材のダイバーシティを活用する取り組みとしても注目を集めている。
「生物多様性の問題」などのグローバルリスクは、問題点を深掘りするにつれ、新たな問題が浮き彫りになり、今後も増え続ける可能性がある。加えて世界情勢の変動により、新たなリスクにさらされることもある。そういった場合に迅速に対応し、適切な経営戦略を打ち出すためにも、人材のダイバーシティが今後、より重要になってくるのではないだろうか。(編集担当:今井慎太郎)