放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は9日、NHKが21年12月26日放送した「BS1スペシャル『河瀬直美が見つめた東京五輪』に重大な放送倫理違反があった」と指摘した。番組が「別のデモに関する発言を、五輪反対デモ発言にすり替え編集していた」など、取材・編集・試写のそれぞれの段階に問題があったと指摘している。
BPOは「『五輪反対デモに参加しているという男性』『実はお金をもらって動員されていると打ち明けた』という『事実と異なる字幕を付け男性を紹介』。『デモは全部上の人がやるから(主催者が)書いたやつを言ったあとに言うだけ』『それは予定表をもらっているからそれを見て行くだけ』と男性が発言する映像を用いた」と指摘。
「これらにより、本件放送は視聴者に対し、五輪反対デモは金銭によって動員されていると男性が打ち明け、男性が参加した五輪反対デモでは主催者が決めた言葉をそのまま発声し、さらに普段から男性は渡された予定表にしたがってデモに出かけていた、という内容を男性の発言として伝えることになった」と断じた。
そのうえで、放送された内容と事実は違い「男性が五輪反対デモに参加した事実はない。男性が別のデモに参加し、金銭の授受があったとされることについても確証は得られていない」と取材・編集・チェックの甘さを指摘した。
この放送によって、コロナ禍で五輪は開くべきでないと純粋に中止を求めた多くの人たちのデモ活動が、金銭動員されたデモのような誤解を与えるものになったことは、報道機関としてあってはならないことといえよう。
BPOは「五輪反対デモは確固たる信念を持った者が集まって行われているのではなく、主催者が金銭で参加者を組織的に動員し、主催者の意向に沿って行動させているという誤った印象を与えることとなった」と指摘。
「なぜ、このような事態が起きたのか。検証を重ねた結果、委員会は取材、編集、試写の各段階に問題があると判断するに至った」とまとめた。「ディレクターは発言者の意図を正確に確認することなく、独自の解釈で編集した結果、視聴者を誤信させる番組を作ってしまった」とした。
BPOは「東京五輪ではない別のデモに関する男性の発言を東京五輪のものであるかのように誤信させる編集が行われていた。字幕の内容は、むしろ試写を重ねるごとに取材した内容から離れ、事実をゆがめる方向に変わっていった。デモの価値をおとしめようという悪意が介在していたかどうかは不明だが、男性の発言が五輪反対デモではない別のデモに関する発言であることをディレクターが明確に認識する中で本件放送は編集され、完成していった。単なる字幕の付け間違いという問題ではない」と悪質性を断じた。
NHKはBPOの意見に対して、同日「指摘を真摯に受け止める」とし「放送の基本的な姿勢を再確認し、現在進められている再発防止策を着実に実行して視聴者の皆さんの信頼に応えられる番組を取材・制作してまいります」とコメントを発表した。
立憲民主党の小西洋之参院議員は「事実をねじ曲げる改変であり、放送法違反のとんでもない事件だ。NHKは専門家の第三者委員会で検証すべきだ。そうでなければ、受信料を国民に求める資格がない。総務省もNHKに厳しい指導を行うべきだ」とツイッターで発信している。こうした声に答えるのか、NHKの対応が問われている。(編集担当:森高龍二)