新型コロナウイルス感染症の大流行から、まる3年が経とうとしている。世界中で6億人を超える感染者を出し、今なお感染拡大し続ける未知のウイルスがもたらした混乱は、人々の暮らしにも大きな変化をもたらした。しかし、今年に入ってからは徐々に世界の国々でも行動規制が緩和されており、少しずつコロナ以前の生活を取り戻しつつある。
日本でも第7波が収まり、旅行支援なども始まったことで経済が大きく動き出した。
度重なる行動規制で人流が抑えられ、多くの企業が苦戦を強いられる中、コロナ禍だからこそ生まれた新たなビジネススタイルも確立されつつある。とくに外出自粛や時短要請で直接的な打撃を受けた飲食業界では、生き残りを賭けた大きな変化と決断が求められた。
例えば、食品メーカーのケンミン食品も例外ではない。
兵庫県神戸市に本社を置く同社は、お米のめん「ビーフン」でおなじみの会社だ。同社の商品は全国のスーパーマーケットなどで販売されているほか、コンビニエンスストアや学校給食、惣菜メニュー、外食レストランや居酒屋などのメニューに広く使われており、ケンミン食品直営のレストランも経営している。
ところが、コロナ禍の影響で直営レストラン売上はコロナ前に比べ8割も減少したという。コンビニや外食チェーンなどへ卸していた業務用の商品も、リモートワークが進んでいく中で主要都市での売上が減少、学校も休校や学級閉鎖などが相次いだため、給食用の商品も大きく後退してしまった。
先の見えない状況の中、売り上げの回復と販売増を図るため、2021年6月に同社の高村祐輝社長が考え付いたのがビーフンメーカー初となる「自動販売機による冷凍販売」だった。
もともと業務用の商品があるので、自動販売機用に新しく商品を開発する必要もなかったことから、まずはすぐに本社の前に1台目を設置。その後、愛知県、福岡県、静岡県へと全国に拡大していき、10月には地元神戸の市営地下鉄・神戸電鉄谷上駅構内で6台目を設置した。コロナ禍でも利用しやすい非対面式で、24時間いつでも手軽に購入できることから消費者には大好評で、1台目は初月対目標300%、2台目同130%と予想を大幅に上回る成果を上げているという。また、新しい販売チャネルとしてだけでなく、同社の認知向上にも役立っており、新しい購買層の開拓にもつながっているようだ。
まだまだ世の中はコロナ以前の状態にまで戻ったとはいえず、相変わらず厳しい状況が続いているが、全く新しい事業を始めなくても、ケンミン食品のように既存の商品やリソースを活かすことで、新たな道を切り開くことはできる。その為には、経営者や経営陣の素早い決断と実行力が、これからの時代にはますます必要だと改めて感じる。(編集担当:今井慎太郎)