お正月は気持ちを引き締めて、新たな目標を掲げる良い機会でもある。初詣で神様に誓いを立てたり、今年の抱負を書初めしたりした人も多いのではないだろうか。
目標といえば、昨年末にカナダ・モントリオールで開かれていた国連・生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)では、世界の陸と海の少なくとも30%を保全することを柱とする2030年までの新たな生態系保全目標が合意された。これは、G7サミットで交わされた国際約束「30by30」にも準ずるもので、昨年4月には環境省が事務局を務める生物多様性国家戦略関係省庁連絡会議でも「30by30ロードマップ」が示されている。
2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復させることは、世界規模の人類共通の課題であると同時に、一人一人の個人レベルの問題でもある。これは生物多様性だけでなく、SDGsに掲げられた目標すべてに共通することだが、目標を達成できなければ、最終的には個人の生活が脅かされることになる。そして、それを食い止めるためには、国家の働きかけだけでなく、個人や民間企業も積極的に取り組みに参加する必要がある。
そこで今、注目されているのが「アップサイクル」という考え方だ。
アップサイクルは「創造的再利用」とも呼ばれ、本来は捨てられるはずの製品に新たな価値を与えて再生することをいう。お馴染みのリサイクルやリユース、リデュースと違うのは、再利用によって「価値を向上させる」点だ。ただの再利用や再活用ではなく、デザインやアイデアによって付加価値を与えられるものを「アップサイクル」と呼ぶ。
例えば、日本の代表的な日本酒メーカーの一つである白鶴酒造のアップサイクルの取り組みが良い例だ。同社では、これまで清酒製造の際にろ過処理法の一つとして使用され、使用後は堆肥として利用されていた活性炭を、牛にも地球環境にも優しい飼料「サケ炭(すみ)」としてアップサイクルする取組みを昨年12月から始めている。
炭はこれまでも畜産用の飼料として広く活用されている。同社は、「サケ炭」には日本酒由来の様々な栄養が含まれていることや、活性炭自体の体内の不要物の吸着効果に着目し、資源の有効活用を目的として取り組みを進めていた。兵庫県内の飼料会社や畜産農家の協力のもと実証実験や研究を重ねた結果、「サケ炭」には、牛の栄養源となる日本酒由来の粗たんぱく質が乾物換算で20%も含まれているだけでなく、子牛の重大疾病である下痢を低減し、牛の糞由来の悪臭を約9割も低減する効果があることを突き止めたという。地球環境の負荷低減というだけでなく、牛の死廃や病傷事故の低減、生育促進、飼育場周辺の生活環境の保全などにもつながるものとして期待されている。
日本では家畜の飼料のほとんどが輸入に頼っているため、為替の変動の影響や輸送費の高騰で飼料も急騰。畜産農家が悲鳴を上げているのが現状だ。一方、国内資源の「サケ炭」は安心安全なうえ、比較的安価なので飼料費の低減につながり、持続的な使用も可能となる。さらにはフードマイレージを下げ、CO2削減にもつながるというわけだ。
家庭でもアイデア次第で新たな価値を生み出すアップサイクルの取り組みは可能だ。お茶の高い脱臭効果を利用して、使用後のティーバックを脱臭剤にしてみたり、空き缶に簡単な塗装を施して、小物入れやプランターなどにしてみたり、これまでゴミとして簡単に捨ててしまっていたものでも、アイデア次第では生活を豊かに潤してくれるものに大変身させることもできる。今年のお正月は、家族でアップサイクルを話題にしてみたり、身近なものでアップサイクルに挑戦してみてはいかがだろうか。もしかすると、白鶴酒造のように、これまでの世間の常識や課題を覆すような、画期的なアップサイクルも生まれるかもしれない。(編集担当:藤原伊織)