岸田文雄総理は我が国を取り巻く安全保障環境が大きく変わりつつあることを理由に「反撃能力」の必要を強調。「相手に攻撃を思いとどまらせる抑止力として、今後不可欠」と国会答弁や記者会見で「正当化」している。
また国是とする「専守防衛」を「逸脱するものではない」とも強調するが、憲法の趣旨を逸脱するものでもないのか。歴代政府答弁との整合性を含め、論理的に、分かり易く、危機感をあおり、感情論に訴えるのではなく、納得のいく冷静な説明を国会で行ってほしい。
反撃能力という「敵基地攻撃能力」保有は憲法違反にならないのか。週明けからの衆参予算委員会では憲法に照らしてどうなのか、憲法条項と憲法の精神に照らした「国家の安全保障の在り方」を徹底議論し、誤った方向に走らないよう国民に分かり易い熟議を求めたい。
政府・与党のいう「反撃能力」つまりは、相手国の誘導弾などの基地を破壊する能力の保有に関して、総理は「武力行使3要件に基づき、攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の防衛措置として行使するもので、攻撃目標の対象は厳格に限定する。やむを得ない必要最小限の措置の対象を個別具体的状況に照らし判断していく」と答弁した。その言葉に説得力を欠くのはなぜなのか。
そもそも、1959年の政府答弁で、当時の伊能繁次郎防衛庁長官は同年3月19日の衆院内閣委員会で敵基地攻撃と自衛権の範囲に関して「法理的には自衛の範囲であり、可能と考えるが、その危険があるからと言って、平生から他国を攻撃するような、攻撃的な脅威を与えるような兵器を持っているということは憲法の趣旨とするところではない」と明快に答えている。
1967年の参院予算委員会でもノーベル平和賞授賞者の佐藤栄作総理が「わが国が持ち得る自衛力は他国に対して侵略的脅威を与えない、侵略的脅威を与えるようなものであってはならない。これは自衛隊の自衛力の限界であり、はっきり限度がおわかりいただけるだろう」と答弁している。
2015年9月4日には大塚耕平参院議員(現・国民民主)の要求に応じて平和安全法制特別委理事会に提出された資料で、内閣官房は「わが国は敵基地攻撃を目的とした装備体系を保有しておらず、個別的自衛権の行使として敵基地攻撃を行うことは想定していない」ときっぱり答弁してきた。
岸田総理は現実的とか、感情論を織り込んで「正当化」しようとしているが、これまでの政府答弁や憲法の趣旨をきっちり踏まえているのか。やたら「抑止力のために不可欠」などという。「反撃能力」を抑止力にする考えの行き着く先は「核保有」「米国との核共有」まで。岸田政権の後の政権がより抑止力のための反撃力(防衛装備という武器装備)を訴え『非核三原則』の変更を行えば、歯止めが効かなくなりそこまで行きつくだろう。
そもそもが、防衛装備(武器)を持って「抑止力」につなげる考えは「脅威を与える」外交姿勢でないのか。河野洋平元衆院議長は7日のテレビ番組で「反撃能力というのは威嚇だ」と断じた。
岸田総理の発想には武器装備を背景にした外交姿勢が見え隠れし、とても平和憲法を有する国家の総理として合格者なのか、危うさを感じる。ある種、故安倍晋三元総理以上に質が悪い。それだけに国会論戦での野党の健闘を祈りたい。問題点をより鮮明にあぶり出し、修正すべきは修正することを実現してほしい。
日本共産党の志位和夫委員長は「今自衛隊が持とうとしている『敵基地攻撃能力』は米軍が地球的規模で構築している『統合防空ミサイル防衛』(IAMD=敵基地攻撃能力とミサイル防衛を一体化したシステム)に溶け合うように一体化して(自衛隊が米軍に)組み込まれることになる。米軍のIAMDは先制攻撃を公然と方針に掲げている。恐るべき危険はここにある」と国会での26日の衆院本会議代表質問で問題提起した。予算委員会でこの点も議論を深めることが必要だ。(編集担当:森高龍二)