高市早苗経済安全保障担当大臣は2015年の総務大臣当時、放送番組に対して厳重注意を行ったことに対して、放送倫理・番組向上機構(BPO)から同年11月6日「政府が放送法の規定に依拠して個別番組の内容に介入することは許されない」と指摘、注意を受けていた。
高市大臣はNHKが総合番組「クローズアップ現代」で2014年5月14日に放送した『出家詐欺』報道事案に対し、2015年4月28日にNHKに厳重注意を行っていた。この日はNHKが問題の番組に関し調査報告を公表した日で、公表から数時間後に厳重注意をしていた。
BPOは「総務大臣は(番組に対して行った)厳重注意の理由について『事実に基づかない報道や自らの番組基準に抵触する放送が行われた』ことであり、厳重注意の根拠は放送法の『報道は事実をまげないですること』(第4条第1項3号)と『放送事業者は、放送番組の種別及び放送の対象とする者に応じて放送番組の編集の基準を定め、これに従って放送番組の編集をしなければならない』(第5条第1項)との規定だと(説明)するが、これらの条項は、放送事業者が自らを律するための『倫理規範』であり、総務大臣が個々の放送番組の内容に介入する根拠ではない」と断じた。
放送法4条(政治的公平)を巡る説明なので、BPOの説明をそのまま紹介する。
放送による表現の自由は憲法第21条によって保障され、放送法は、さらに「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること。」(第1条2号)という原則を定めている。
しばしば誤解されるところであるが、ここに言う「放送の不偏不党」「真実」「自律」は、放送事業者や番組制作者に課せられた「義務」ではない。これらの原則を守るよう求められているのは、政府などの公権力である。
放送は電波を使用し、電波の公平且つ能率的な利用を確保するためには政府による調整が避けられない。そのため、電波法は政府に放送免許付与権限や監督権限を与えているが、これらの権限は、ともすれば放送の内容に対する政府の干渉のために濫用されかねない。
そこで、放送法第1条2号は、その時々の政府がその政治的な立場から放送に介入することを防ぐために「放送の不偏不党」を保障し、時の政府などが「真実」を曲げるよう圧力をかけるのを封じるために「真実」を保障し、政府などによる放送内容への規制や干渉を排除するための「自律」を保障しているのである。
これは、放送法第1条2号が、これらの手段を「保障することによって」、「放送による表現の自由を確保すること」という目的を達成するとしていることからも明らかである。
「放送による表現の自由を確保する」ための「自律」が放送事業者に保障されているのであるから、放送法第4条第1項各号も、政府が放送内容について干渉する根拠となる法規範ではなく、放送事業者が自律的に番組内容を編集する際のあるべき基準、すなわち「倫理規範」なのである。
逆に、これらの規定が番組内容を制限する法規範だとすると、それは表現内容を理由にする法規制であり、あまりにも広汎で漠然とした規定で表現の自由を制限するものとして、憲法第21条違反のそしりを免れないことになろう。
放送法第5条もまた、放送局が自律的に番組基準を定め、これを自律的に遵守すべきことを明らかにしたものなのである。したがって、政府がこれらの放送法の規定に依拠して個別番組の内容に介入することは許されない。
とりわけ、放送事業者自らが、放送内容の誤りを発見して、自主的にその原因を調査し、再発防止策を検討して、問題を是正しようとしているにもかかわらず、その自律的な行動の過程に行政指導という手段により政府が介入することは、放送法が保障する「自律」を侵害する行為そのものとも言えよう。
以上のように、BPOは放送法4条を明確に解説しており、高市大臣が「一つの番組でも極端な場合は政治的公平を確保しているとは認められない」とし「たった一つの放送番組だけで放送法違反が認定でき、テレビ局の電波を止めることができる」などと国会答弁したことは表現の自由をより保障するための放送法の目指す目的と真逆の解釈を当時の安倍晋三総理の意向に沿って行ったと言わざるを得ず、政府の言う「補足的説明」に関して憲法の保障する「表現の自由」確保のため、撤回されなければならない。(編集担当:森高龍二)