「異次元の少子化対策」の財源を巡り、岸田内閣は社会保険料上乗せで賄おうとしている。島根県の丸山達也知事は25日の記者会見で「社会保険、具体的には医療保険と思うが、個人で月500円上乗せする。『人頭税』みたい。著しく逆進性が強い負担・やり方で適当でない」ときっぱり。納税能力に関係なく支払わせるやり口を問題視した。賛同する声が多い。
丸山知事は「若い人も500円。私は高い報酬を頂いていますが、私も500円。何かおかしいでしょ。逆進性の強い国民負担の増加策を取るのは、それでこどもが増えると思いますか。お金のない人は子育てあきらめて下さい、みたいなことにならないか」と安易な財源確保策を批判した。
丸山知事は経団連の十倉雅和会長が財源は消費税活用含め議論すべきとしていることにも「生活の厳しい人が一番きつい目に遭う税制をやればいいんだって、一番社会的地位の高い人が言うって、世も末な感じがする。私は声を大にして言いたい。応能負担の観点を入れるべき。経団連の会長の言っていることを聞いていたら、日本は滅びると思いますよ」と。
同感だ。応能負担での捻出を考えるべき。コロナ禍でも膨れ上がった大企業の内部留保。安倍政権下で23%にまで引き下げられた法人税こそ、財源確保にもとの28%まで戻すべきだ。合わせて、金融所得にかかる税制の見直しや富裕層への応能負担を求める税改正をこそ、子ども・子育て支援の財源ねん出に行うべきだ。
大富豪の資産は2012年度の6兆円から20年度で21兆円にまで膨れ上がり、さらに膨れている。一方、年収200万円以下の働く貧困層が倍増している中で、弱小零細事業者やフリーランスへの新たな負担となる「インボイス」制度も10月からスタートする。岸田政権の新しい資本主義は格差拡大をさらに深刻化させ、弱者冷遇政策になる。
典型は高齢者への諸々の負担増。「全世帯型社会保障制度」構築という名の下、高齢者に厳しい負担増を強いる。75歳以上の公的医療保険料は年収211万円超の人は来年度から、153万円超の人も再来年度から引上げとなるが、保険料の引き上げより先に一定所得のある人に対しては昨年秋から病院窓口での医療費負担が増えている。
少子高齢化での少子化対策、子育て支援は当然必要だが、その財源確保のために、年金暮らしの高齢者からまで搾り取る政策が「人にやさしい社会」といえるのか。疑問と言わざるを得ない。
岸田総理は資産倍増を打ち出し、個々人が豊かになれば消費も伸びるというが、資産を持てないでいる国民も視野に入れた政策を忘れてはならない。
少子高齢化で一人暮らし老人は増えている。高齢で買い物難民になったり、医療機関への通院負担で生活苦に陥ったり、孤独死と隣り合わせの高齢者もいる現実に目を向けた対策拡充の必要を忘れてはならない。年金暮らしで所得が増えない中で食料品など諸々の物価高が続いている。
現在の彼や彼女ら高齢者も現役時代、諸々の税を支払い、子育てをし、国民としての義務を果たしてこられた方々だ。そして、今の現役世代もいずれ、高齢者となり、社会保障の下で年金暮らしになることを考えなければならない。
高齢者への社会福祉の質の低下はいずれ自らが享受しなければならない羽目になる。「いずれ行く道」だ。不安を持たず、年を重ねることができるよう、むしろ、高齢者政策は手厚くしておくことが、現在の現役世代のためにもなり、消費拡大にもつながっていくことを知ることが必要だ。
高齢者が増え、支える現役の若者が減ったというだけで、社会保障の財源を高齢者への処遇を悪化させ、若者に移していく発想はすべきでない。高齢者には現況維持か、今以上の保障をしたうえで、子ども子育て支援の財源をねん出することを熟考していかねばならない。でなければ老後不安や暮らしの守りのための「タンス預金」が増えるだけだろう。
岸田政権は所得制限を撤廃して児童手当(月額1万円)を実施し、支給期間も高校卒業まで拡充。第3子以降へは3歳から小学生を対象に月額3万円を支給するという。そのために社会的弱者にまで新たな負担を求め、一方で法人税の見直しや高額所得者、金融所得で暮らす富裕層への応能負担を求めない。なんという総理か。個人の預貯金を株式市場に誘導する「資産倍増」政策優先では多くの国民は恩恵を受けられず、負担のみ強いられることになろう。
共産党の志位和夫代表は政府が児童手当拡充等の財源に「医療保険料1人当たり月500円上乗せ」報道に「月500円は重い。医療保険料を児童手当に当てるのは目的外流用で筋が通らない。富裕層と大企業優遇税制はそのまま、43兆円の大軍拡を進めようとすれば、こういう理不尽になる。岸田政権は袋小路に陥っている」とツイッターに投稿した。理不尽な政策は絶対にとるべきでない。(編集担当:森高龍二)