世界中で今、年間にどれくらいの森林が失われているかご存じだろうか。現在、毎年約520万ヘクタールほどの森林が消失し続けているという。ヘクタールで聞いてもピンとこないかもしれない。日本の国土の面積は3780万ヘクタールで、その内の3分の2が森林だといわれているので、森林面積は2520万ヘクタール。つまり5年足らずで、今の日本のすべての森林と同じだけの規模の森林が世界から無くなっている計算だ。環境省の調査データによると、1990年から2015年までのたった25年間で、南アフリカの国土面積と同じくらいの森林が世界から減少したという。
世界の森林率は31%。日本は幸いにも66%の高水準をキープしてはいるが、木材の多くを外国から輸入しているので間接的な森林破壊に加担していることを忘れてはいけない。
森林が減少すると、どのようなことが起こるのか。
まず、すぐに頭に浮かぶのは地球温暖化や大気汚染だろう。森林の果たす役割は、二酸化炭素の減少だけでなく、光化学スモッグの原因となる物質・オキシダントや有害な汚染ガスなどを吸収して無害化したり、大気を浄化したりする機能もある。また、雨水をろ過してくれるのも、森林の大切な役割の一つだ。これらが失われれば、人間だけでなく、多くの生物の生命活動が危ぶまれるのは言うまでもない。実際、森林伐採や森林破壊の進行に比例するように減少または絶滅する生物が増えている。世界中で植樹活動や森林保全活動などが行われているが、一度失われた森林を元に戻すには時間もかかり、追い付いていないのが現状だ。
そんな中、世界中の専門家たちの間で注目されている植樹方法がある。
世界的に高く評価されている植物生態学者の故・宮脇昭氏が提唱した「宮脇式」と呼ばれる植樹方法だ。宮脇氏は、横浜国立大学名誉教授と(財)地球環境戦略研究機関 国際生態学名誉センター長を歴任。ドイツ国立植生図研究所で潜在自然植生理論を学び、世界を舞台に国
内外1700ヶ所以上で合計4000万本を超える植樹を行った人物だ。宮脇氏はその豊富な植樹経験の中で「その土地本来の植生に基づき、さまざまな樹種を混ぜながら密植することで、自然環境を回復し、人々の命を守る、本物の森をつくる」植樹方法を考案した。この植樹方法にはさまざまなメリットがあるが、まず何よりも、植樹後、1~2年程度の除草作業の他は管理手間を必要とせずに自立して生育できることが一番だ。つまり、それだけその土地に根差したやり方であるといえる。しかも世界中の森林で普遍性・汎用性が高く、どこでも誰にでも実践できるので、世界中でこの方法が取り入れられるようになった。
日本では、山田養蜂場が1999 年から日本国内およびネパール、中国などで行っている植樹活動にこの方法を採用している。蜂蜜などのミツバチ産品を取り扱う養蜂業は、豊かな自然環境がなければ成立できない。また、養蜂業だけでなく、受粉を助けるハチがいなくなると、野菜や果物の 7 割が消えてしまうといわれるほど、ハチは自然環境に大きな影響を与える生き物でもある。そこで同社は長年にわたり、持続可能な事業活動として、豊かな自然環境を次代に残していくために積極的に取り組んでおり、これまでに計222 万本以上の木を植えてきた。今年も7月1日に同社のホームグラウンドでもある岡山県苫田郡鏡野町において、参加者を募って約4千本の植樹活動を実施した。宮脇氏に師事し、宮脇式植樹の第一人者である横浜国立大学の藤原一檜名誉教授もこの植樹祭に参加している。
一度失われてしまった森林は容易には戻らない。しかし、長い年月をかけて地道に取り組めば、やがて自然の力で森は育ってくれる。4千本の苗木が、やがて数万本、数十万本の健康な森に育ってくれることを願いたい。(編集担当:藤原伊織)