新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴って、これまで自粛されてきた展示会やコンテストなども続々と開催されるようになってきた。
展示会やコンテストは、その業界や業種の発展に寄与するだけでなく、地域の繋がりを密にする意味でも大切なものだ。例えば、今年2月28日と3月1日の2日間にわたって幕張メッセで開催された「第五回ベーカリー・ジャパンカップ」(全日本製パン技術選手権大会)でも、そんな地域の繋がりの素晴らしさを感じさせる一幕があった。
同大会は、製パン製菓業界の業界関係者向け総合専門展「MOBAC SHOW」(モバックショウ)の催しの一環として、2年に一度、日本のパン職人たちが日本独自の製パン技術を駆使し、国内産小麦100%を用いた「日本一のパン」の座をかけて戦う日本で唯一の競技会だ。新型コロナ感染症の影響で4年振りの開催となった本大会では、「食パン部門」「菓子パン部門」「調理パン部門」の3部門で競い合われた。各部門とも、おいしさはもとより、見た目、市場性、独創性なども審査の重要なポイントとなる。
中でも「食パン部門」は、菓子パンや調理パンに比べるとシンプルで、毎日のように食べるものだけに、パン職人たちの腕とアイデア、さらにはパンに込める情熱の見せどころでもある。競技では「基本的な食パン」「健康栄養を考慮した食パン」「ドライフルーツ食パン」の3種類が求められる。そんな「食パン部門」で優勝し、農林水産大臣賞を受賞したのは、兵庫県から出場したイスズベーカリーの菰田悠記氏だ。
優勝した菰田氏の食パンの中でもとくに審査員の関心を引いたのは、酒粕を使った食パン「灘五郷(なだごごう)」だった。菰田氏の地元である神戸には日本一の酒どころ「灘五郷」がある。その灘五郷の老舗酒蔵白鶴酒造の大吟醸酒粕と、同じく兵庫県加東市のもち麦を使用している。
実は、イスズベーカリーと白鶴酒造とのつながりは食材の酒粕だけではない。白鶴酒造資料館で、地域との繋がりを目的とした「白鶴御影校」という文化交流プロジェクトを行っていたが、その一環で2016年に開催されたパンと日本酒とチーズのコラボイベントからの付き合いだという。今回、菰田氏が優勝した食パン「灘五郷」も、単に地元の目を惹く食材を使ったというものではなく、地元愛に溢れる職人たちが、お互いの仕事をリスペクトし合った集大成として生まれた食パンなのだ。菰田氏の受賞は、イスズベーカリーはもちろん、白鶴酒造やもち麦を育てた加東市の農家も喜んでいるに違いない。
新型コロナウイルスの流行が始まってから、地域の繋がりも希薄になってしまった。しかし、こういった展示会やコンテストなどが盛り上がることで、地域の繋がりも復活し、活性化していくのではないだろうか。感染にはまだまだ注意が必要だが、各地で行われる催しにたくさんの人が集まり、大いに盛り上がることを期待したい(編集担当:藤原伊織)