エネルギー効率に優れたSiCパワー半導体は、自動車や産業機器をはじめ、幅広い分野へ採用の幅が広がっている。それに伴い、SiCウエハ市場の伸びも著しく、調査会社グローバルインフォメーションの市場調査を基にした予測によると、2021年に7億2674万米ドルと評価されたSiCウエハ市場は、2027年には20億2546万米ドルに達する見通しで、予測期間2022-2027年の年平均成長率は19.04%となっている。
こうした背景から、欧米や中国、そして日本でも、関連する企業の動きが活発になってきた。2022年時点でSiCウエハ市場シェア3位についているロームグループ子会社のSiCrystalは、半導体メーカーのSTマイクロエレクトロニクスへの既存の複数年におよぶ150mm SiCウエハの長期供給契約をさらに拡大することを2024年4月に発表した。拡大期間における取引額は2.3億ドル以上になる予定だという。
ロームは、世界で初めてSiC MOSFETを量産したり、世界初のフルSiCパワーモジュールを開発するなど、世界からもSiCのリーディングカンパニーとして知られている企業だ。2009年にSiCウエハメーカーであるSiCrystalをグループに迎え、ウエハからデバイスまでの垂直統合生産体制を他社に先駆けて構築している。SiC事業において、ウエハ、チップ、デバイス、モジュールと多様な形態で販売を行っているのが特徴だ。
同社ではSiC市場において世界シェア30%を得るという目標を掲げ、車載や産機分野を中心にグループ全体でSiC事業に注力している。昨年には、SiCパワー半導体及びSiCウエハの主力生産拠点として、広さ約40万㎡に及ぶ工場の取得を発表した。2024年中の稼働開始に向けて、整備を進めている。さらに、2024年7月には、SiCウエハの生産を一層効率化するため、子会社SiCrystalにも最先端技術を備えた新たな生産棟を増設することを発表。新棟生産エリアの完成は26年初め頃の計画であり、この新棟が完成すれば、既存棟も含むSiCrystal全体の生産能力は、2027年に2024年比で約3倍に向上するという。
その他、メーカー各社によるウエハ調達戦略も注目されている。パワー半導体最大手のドイツ企業Infineon Technologies社は、SiCパワー半導体の需要拡大に対応するため、山東天岳先進科技(SICC)および北京天科合達半導体(タンケブルー)の中国企業2社とそれぞれ調達契約を締結している。こちらもやはり、SiCウエハと、それを切り出す前のSiC単結晶を確保するのが目的だ。同社はこれまでにも、SiCウエハ最大手の米国企業Wolfspeedなどとも同様の契約を結んでおり、SiC市場での積極的なシェア獲得の姿勢を示している。
各社がSiCウエハに注力する大きな理由としては、xEVの普及やあらゆる物の電装化によって急拡大したSiCパワーデバイス需要への対応が挙げられる。そして、SiC パワーデバイスの低コスト化も目的の一つにある。
SiCウエハはシリコンウエハよりも製造難易度が高いため、SiCパワー半導体のコストの大きな割合を占める。SiCウエハのコストを抑えられれば、SiCパワー半導体もかなりのコストダウンが図れる。そのようななか、ロームのようなSiC半導体のウエハからチップまで垂直統合型生産体制を実現している企業は、自社のSiCパワーデバイス生産増強にスムーズに繋がるだけでなく、全工程の製造情報をすりあわせることで、デバイスの信頼性も高くなり、かなり優位と言える。近年はアジア企業の中でも中国企業の活躍が目覚ましく、日本企業は押され気味だ。足元ではEV市場の減速が懸念されているが、長期的には益々の伸びが予測されるSiCウエハで存在感を強めてくれることを期待したい。(編集担当:今井慎太郎)