クラフトビールやクラフトジンに続き、クラフトサケの人気が高まっている。
クラフト(craft)は、英語で「技術」「工芸」「職人技」などを意味する言葉で、クラフト系のアルコール飲料は、小規模な醸造所でつくられた個性的な酒につけられることが多いことから、個人や家族経営のような小さな醸造所でつくられる酒のようなイメージを持っている人も多いと思うが、そうとは言い切れない。クラフト系アルコール飲料の個性的な味わいに新たな魅力を感じて、積極的に取り組みを始めている大手の酒類メーカーも増えている。
例えば、ビールではキリンビールが「スプリングバレー(SPRING VALLEY)」のブランド名でクラフトビールを展開しており、定番の3種に加え、季節限定商品も販売している。また、クラフトジンではサントリーが、桜花、桜葉、煎茶、玉露、山椒、柚子の、日本ならではの6種のボタニカルを浸漬、蒸溜したジャパニーズクラフトジン「ROKU(六)」を販売。スムースな口当たりと上品な味わいで人気を獲得している。
そして最近は、クラフトサケも注目されている。2020年頃から各地で日本酒の製造方法をベースとしたお酒「クラフトサケ」を造る小さな醸造所が出来始め、2022年6月にはクラフトサケブリュワリー協会が設立された。同協会の定義によると、クラフトサケとは「日本酒(清酒)の製造技術をベースとして、お米を原料としながら、従来の「日本酒」では法的に採用できないプロセスを取り入れた、新しいジャンルのお酒」となっている。
この新しいジャンルのお酒を日本の酒どころの一つ灘五郷の老舗酒蔵であり、日本酒のトップブランドである白鶴酒造が、昨年9月に本社に併設する白鶴酒造資料館内に、日本酒やその他の醸造酒を造る37㎡の小さな醸造所「HAKUTSURU SAKE CRAFT(ハクツル サケ クラフト)」をオープンさせた。このマイクロブルワリーというツールを使って、これまでできなかった小スケールでのユニークな酒造りや実験的な取組み、その他様々なチャレンジを行っていくという。資料館を訪れた国内外の来館者は、昨年12月にユネスコの無形文化遺産に登録された伝統的な麹造りを含む酒造りをガラス越しに見学することができ、クラフト感を目の前で体感できるので、評判も上々のようだ。
そして、10月には記念すべき初醸造の日本酒「HAKUTSURU SAKE CRAFT №1」を数量限定で販売している。同社の酒蔵開放で、お披露目の有料試飲が催されたところ大好評で、720mlで4000円という価格ながら、すぐに完売したという。以降、月一回のペースで、杜氏と蔵人の2人が個性的な酵母や醸造技術で「HAKUTSURU SAKE CRAFT」の酒を発表しており、現在までに「№5」が販売されている。
味や物珍しさもさることながら、その面白いところは、同じ酒質は造らず、仕込みごとに一期一会の出会いであることへのこだわりだ。「HAKUTSURU SAKE CRAFT №1」はパイナップルのような熟れた甘い香りとすっきりとした後味が特長の酒だったが、「№4」では初めて米以外の原料も使った「その他の醸造酒」に挑戦し、ホップ由来のポリフェノールによって色づいた華やかなロゼ色の鮮やかな新しいジャンルの酒を造り出した。また、2月18日から発売されている、「HAKUTSURU SAKE CRAFT」初の厳冬仕込の「HAKUTSURU SAKE CRAFT №5」は、職人の試行錯誤の末、玄人向けのエレガントでふくよかな吟醸香が特長の酒となっている。これまでの「№1」から「№4」は全て約2週間で完売している。「№5」を飲んでみたいなら、急いだ方が良いかもしれない。
長い歴史を持つ日本酒は味も技術も研ぎ澄まされ、完成されたものと思われていたが、クラフトサケという新しい道が切り拓かれたことでさらに無限の可能性が生まれた。日本酒好きの人はもちろん、これまで日本酒をあまり飲んだことのないような人も、ぜひクラフトサケを味わってみてほしい。(編集担当:今井慎太郎)