日本専用車の時代は終わるのか 日産ムラーノに見る「逆輸入」戦略

2026年06月04日 10:24

日産ムラーノ

米国テネシー州スマーナ工場で生産され、日本市場への導入が発表された日産「ムラーノ」。国土交通省の新たな認定制度を活用した北米向けモデルの投入は、自動車業界で進むグローバル車戦略の広がりを象徴する動きとして注目される。(画像:日産自動車ニュースリリースより)

今回のニュースのポイント

日産自動車は3日、米国テネシー州のスマーナ工場で生産しているミッドサイズクロスオーバーSUV「ムラーノ」を日本市場へ導入し、注文受付を開始したと発表しました。今回の注目点は、新型SUVの発売そのものにとどまりません。国土交通省が2026年2月に創設した「米国製乗用車の認定制度」を実際に活用し、北米市場向けモデルの国内投入を実現した点にあります。自動車開発コストの世界的な高騰や国内市場の構造変化を背景に、日本専用車を個別に開発する手法から、グローバル展開を前提とした一元的な市場戦略へと自動車産業の潮流がシフトしつつある実態を示しています。

本文
 日産自動車は、これまで北米市場を中心に展開し高い評価を得てきた米国生産のプレミアムモダンクロスオーバーSUV「ムラーノ」の日本市場導入を発表し、受注を開始しました。新型ムラーノは、最高出力180kW(245PS)、最大トルク352N・mを発揮する2.0リッター可変圧縮比(VC)ターボエンジンを日本初導入し、9速オートマチックトランスミッションと4WD駆動を組み合わせた高性能モデルで、国内希望小売価格は796万4,000円(税込)に設定されています。しかし、今回の動向が自動車業界において持つ意味は、単なるプレミアム車種のラインアップ追加という側面にとどまりません。

 今回の国内導入を後押ししたのが、国土交通省が2026年2月に新設した米国製乗用車の認定制度の活用です。従来の輸入手続きに比べて国内販売に向けた各種手続きや型式指定等のプロセスが簡素化されるこの新制度は、海外で先行開発・生産されているグローバル車の柔軟な国内流通を後押しする性質を持っています。今回のムラーノは、この行政制度が大手自動車メーカーによって実際に活用された象徴的な事例であり、制度活用の具体例として注目されます。

 自動車メーカーが「日本専用車」の個別開発を抑制し、グローバル車の相互融通へと戦略を切り替えざるを得ない背景には、世界規模で跳ね上がる開発コストの構造的な問題があります。現在の新車開発においては、電動化への対応に加え、各種安全規制の強化、さらには高度な運転支援システムやソフトウェア定義車両(SDV)化に伴うシステム開発の負担が増加しており、システム開発負担も増大しています。市場ごとの個別ニーズに応じた専用車を開発・生産することは、一国あたりの販売台数で開発費を回収することが極めて難しくなっており、採算確保の観点から車種の共通化が不可欠な課題となっています。

 こうした環境下で各社が推進しているのが、世界共通プラットフォームに基づいた共通開発・共通生産の「グローバル車戦略」です。日本市場向けに右ハンドル仕様や特有のサイズ感に合わせた車体を単独で設計するよりも、世界最大級の市場である米国等で量産効果を発揮しているベース車を、各国の認証制度を活用してそのまま展開する方が投資効率を高めやすい側面があります。今回のムラーノの逆輸入は、市場ごとの専用設計に依存してきた従来のビジネスモデルから、世界市場を前提とした供給体制の拡大を示す動きとも受け止められます。

 この背景には、日本市場が置かれている中長期的な位置付けの変化も存在します。国内市場は人口減少や少子高齢化、それに伴う国内総販売台数の伸び悩みに直面しており、メーカーにとって単独での投資回収効率が相対的に低下する傾向にあります。もちろん、高度な安全技術を求める日本のユーザー層の存在から重要な市場であり続けることに変わりはありませんが、開発・生産の主軸を世界市場に置き、国内へはグローバル統合運営の一環として車種を導入していく流れは必然的に強まっています。

 ここで国土交通省が2026年に新認定制度を創設した狙いを分析すると、個別車種の輸入促進という局所的な目的ではなく、国際的な認証の相互活用による「グローバルな車両流通の円滑化と市場活性化」を見据えた、自動車流通の円滑化を視野に入れた制度と位置付けられます。

 従来の日本の自動車認証は、国内特有の厳格な保安基準や試験を重ねることで、海外製車両の参入に対する事実上の障壁として機能してきた歴史があります。しかし、メーカー側の開発リソースが分散するのを防ぐ観点からも、国際基準との調和や米国基準の柔軟な認定へと舵を切ることは、輸入手続きに伴う行政・企業双方の摩擦コストを削減する効果を生みます。国交省が見据えているのは、国際的な認証制度の活用を通じて車両流通を円滑化し、国内市場への導入選択肢を広げることにあるとみられます。

 日産によるムラーノの日本導入は、一台の新型SUVの発売という話題にとどまらず、日本専用車を前提としてきた市場構造の見直しが進むなか、世界市場で開発された共通資産を効率的に循環させる時代への移行を映し出しています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)