企業の賃金・設備投資、供給網通じ連動 日銀研究、輸送機械で賃金波及を確認

2026年08月13日 07:42

日銀3

日本銀行。国内製造業の企業間取引データを用いた研究では、サプライチェーンを介した設備投資や賃金の連関が分析されました。

今回のニュースのポイント

日本銀行は、国内製造業の企業間取引データを用いて、サプライチェーン(供給網)を介した企業の設備投資や賃金設定などの動向を分析したワーキングペーパーを公表しました。分析では、完成品メーカーなど下流企業と取引先企業の設備投資が連動する傾向が確認されたほか、自動車など輸送機械メーカーを頂点とする供給網では、頂点企業の賃金動向と傘下のサプライヤーの所定内賃金に連関がみられることが示されました。また、海外需要の変動が取引網を介してサプライヤーの賞与(ボーナス)へ波及することも確認されています。

本文
 日本銀行は12日までに、国内製造業の企業間取引データを用いて、サプライチェーンを介した企業の設備投資や賃金の連関を検証したワーキングペーパー(論文)を公表しました。分析からは、海外需要の変化や下流企業の設備投資、サプライチェーンの頂点企業の賃金動向が、取引網を通じて他の企業の賞与や設備投資、所定内賃金と連関する構造が定量的に示されています。なお、本論文の内容や意見は執筆者個人に属し、日銀の公式見解を示すものではありません。

 分析の基盤には、2025年時点の資本金5000万円以上の製造業企業間の国内取引データ(1万3013社、延べ8万1053件の取引)が用いられました。この生産ネットワークに「法人企業統計」や「企業活動基本調査」、「賃金構造基本統計調査」などを組み合わせ、取引先の動きが別の企業の行動にどのような影響を与えるかを実証的に検証しています。

■海外需要の変動は「取引先の賞与」へ同程度波及
 
 最初の検証結果は、海外需要の変化に対する賃金や投資の反応です。

 海外需要が拡大すると、直接輸出を行う企業だけでなく、その企業へ部品などを納入する間接輸出企業においても、一人当たり賞与(ボーナス)が有意に増加することが確認されました。売上高の変動に対する一人当たり賞与の反応度は、直接輸出企業と間接輸出企業でおおむね同水準でした。

 一方で、一時的な海外需要のショックに対しては、所定内賃金(基本給など)や設備投資における明確な連動は確認されませんでした。この結果からは、一時的な海外需要の変動に対し、所定内賃金や設備投資よりも、賞与の方が調整を通じた影響が表れやすい可能性が示唆されます。

■設備投資は国内外で「下流企業」と連動

 次に設備投資の連関です。分析によると、企業の設備投資と、サプライチェーンの下流(販売先)に位置するカスタマー企業の設備投資との間に連関が確認されました。完成品メーカーなど下流企業の設備投資が増える局面では、サプライヤー側の設備投資も連動する傾向が確認されています。

 この連関は国内取引にとどまらず、海外子会社への設備投資でも確認されました。国内で取引関係がある企業間では、販売先企業の海外子会社が投資を増やすと、自社の海外子会社の設備投資も連動する傾向が示されています。業種別では、鉄鋼、非鉄金属、電子部品・デバイスなどで設備投資の連関が強く表れました。

■自動車など輸送機械で頂点企業からの「賃金波及」を確認

 注目の所定内賃金の連関においては、自動車をはじめとする輸送機械メーカーを「頂点企業」とするサプライチェーンにおいて、頂点企業と傘下のサプライヤー企業の所定内賃金に連関がみられることが確認されました。サプライヤー側は頂点企業の賃金決定日よりも後に自社の賃金を決定する傾向が強く、頂点企業の賃金動向との連関を考えるうえで示唆的な結果となっています。

 一方で、頂点企業からの距離(取引段階)が離れる(Tier3以降など)につれて、賃金の連関作用は弱まる傾向も示されました。こうした結果からは、サプライチェーン上の位置によって賃金動向の連関の強さが異なる可能性が示されています。

■系列変容後も残る企業行動の波及

 かつて日本経済を特徴づけた垂直統合的な「系列」構造は、グローバル化のなかで大きく変化しました。それでも今回の分析からは、企業の設備投資や賃金、賞与といった支出行動が、現在もサプライチェーンという取引網を通じて連動している姿が示されています。

 大企業の業績や賃上げ動向を個別の動きとして捉えるだけでなく、その背後に広がるサプライチェーンを含めて捉えることが、今後の日本経済の景気や賃金動向を把握するうえで一段と重要になりそうです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)