「国の借金」1346兆円、国民1人当たりで見るのは正しいのか 政府債務の本当のリスク

2026年08月10日 15:33

財務省正面

財務省。2026年6月末の国債・借入金・政府短期証券の合計残高は1,346兆6,833億円となった

今回のニュースのポイント

財務省が10日発表した2026年6月末の国債・借入金・政府短期証券の合計残高は、3月末から2兆8,407億円増加し、1,346兆6,833億円となりました。このうち普通国債は6兆5,855億円増の1,110兆8,839億円に膨らんだ一方、借入金や財政投融資特別会計国債(財投債)は減少しました。巨額の政府債務が公表されるたび、「国民1人当たり○○万円」と人口で割った数字が注目されます。しかし、国債の償還や利払いの義務を負うのは国であり、国民一人ひとりが住宅ローンのような返済義務を負っているわけではありません。では、1,346兆円を超えた政府債務をどう捉えるべきなのか。国債の保有構造や日本銀行との関係、金利上昇による利払い負担から考えます。

本文
 財務省が10日に発表した「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」によると、2026年6月末時点における国の債務合計(国債、借入金、政府短期証券の合計)は1,346兆6,833億円となりました。前四半期末(2026年3月末)から2兆8,407億円の増加です。内訳をみると、内国債が1,211兆7,466億円(前四半期末比4兆5,278億円増)、政府短期証券が94兆3,994億円(同2兆999億円増)となった一方、借入金は40兆5,374億円(同3兆7,870億円減)へと減少しました。なお、政府保証債務は別枠の27兆4,346億円(同2,071億円増)となっており、総額1,346兆円とは区分されて整理されています。

 今回の数値で特に重要なのは、政府債務の中核をなす「普通国債」の動向です。普通国債残高は1,110兆8,839億円となり、わずか3カ月で6兆5,855億円増加しました。年限別では、長期国債(10年以上)が5兆6,659億円増、中期国債(2~5年)が3兆8,197億円増となった一方、短期国債(1年以下)は2兆9,001億円減少しています。財投特別会計国債(88兆2,854億円、同2兆6,360億円減)や借入金の減少が全体の増加幅を抑える一方、政府債務の中核をなす普通国債は3カ月で6兆5,855億円増加しており、総額の増加幅(2.8兆円増)を大きく上回りました。

 こうした巨額の数値が公表されると、総額を日本の総人口で割った「国民1人当たり約1,000万〜1,100万円の借金」といった言葉が頻繁に用いられます。しかし、会計・法的な観点から言えば、「政府の債務合計 ÷ 人口 = 国民個人の借金」という等式は成立しません。国債の償還や利払いの義務を負っているのは国であり、国民一人ひとりが個人として同額の返済義務を負っているわけではありません。一方で、発行された国債を保有している日本銀行や民間金融機関、年金基金や投資家らにとって、国債は「資産」として計上されています。「1人当たり」という表現は、規模感を直感的に把握するための便宜上の参考値にすぎず、個人が返済義務を負う住宅ローンやカードローンのような債務とは性質が異なります。

 また、日本の政府債務を考えるうえで欠かせないのが、国債の保有構造と中央銀行(日銀)の存在です。政府から日銀へは保有国債に応じた利子が支払われますが、日銀の決算で生じた最終的な剰余金は、日本銀行法第53条の規定に基づき、一定の準備金等を除いたうえで「国庫納付金」として政府の歳入へ還流する仕組みになっています。このため、政府と日銀を合わせた「統合政府」の視点からみれば、利払いの一部は国庫に戻るため、民間や海外投資家に対する債務と全く同じように扱うことは実態を完全には捉えきれません。

 だからといって「日銀が国債を買っているから借金は無視してよい」ということにはなりません。今最も注視すべきなのは残高の絶対値そのものよりも、今後の「金利」と「維持コスト」です。日本銀行が金融政策の正常化を進め、金利が上昇する局面では、国債の借り換えが進むにつれて政府の利払い費用が徐々に増大していきます。さらに、日銀側も民間銀行から預かる当座預金への付利負担が増加するため、日銀の収益を圧迫し、国庫納付金を減少させる可能性があります。「日銀が保有しているから安心」という議論も、金利のある世界においてはコストの形を変えて政府財政へ跳ね返ってくることになります。

 現在、消費税のあり方や歳出改革を巡り「財源」についての議論が活発化しています。政府債務が1,346兆円に達したからといって、家計になぞらえて過度に恐れる必要はありませんが、同時に「いくら発行しても問題ない」と楽観視することも危険です。減税や新たな歳出を議論する際には、単なる債務残高の数字だけでなく、税収、名目GDP成長率、利払い費の推移、保有者の構成変化などを含めた総合的な持続可能性の検証が不可欠です。

 財務省が公表した1,346兆6,833億円という数字の本質は、「国民1人がいくらの借金を負っているか」ではありません。金利のある世界へ本格移行するなか、日本財政では巨額の債務残高そのものに加え、それが金利上昇によってどれだけの利払いコストを生むのかが、これまで以上に重要なリスクとなっています。政府がこの巨額債務と利払い負担を持続可能な形で管理できるかどうかが、今後の日本財政を考えるうえで重要な焦点となります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)