今回のニュースのポイント
政府は9月24日、法人を最終的に支配する自然人「実質的支配者(BO)」情報を公的機関に届出させる新制度の検討を本格化させました。内閣官房の有識者会議に示した制度案では、上場企業等を除く全内国法人を対象とし、設立時や変更時に氏名や国籍等の登録を求める方向です。国内不動産を所有する外国法人等も対象とする案が示される一方、3年間未届の場合の登記閉鎖案などに対し、経済団体からは事務負担や実務上の混乱を警戒する意見も出されています。
本文
政府は、法人の意思決定を実質的にコントロールする自然人「実質的支配者(BO=Beneficial Owner)」について、法人自身に把握と公的機関への届出を義務付ける新法制定に向けた検討を本格化させました。内閣官房が9月24日の有識者会議に示した制度案では、法人登記上の代表者だけでなく、背後にいる最終的な支配者を把握することで法人の悪用を防ぐ仕組みを目指します。資本多数決法人では、政府案として総議決権の25%超を直接または間接に保有する自然人などをBOとし、設立時や情報変更時に氏名、住所、生年月日、国籍を届け出させる方向です。なお、有識者からは国際基準や実効性の観点から「25%以上」とすべきだとの意見も出されています。
新制度導入の背景には、強まる国際要件があります。G7の中で、法人にBO情報の届出を義務付ける制度が存在しないのは日本のみとなっています。2028年夏に控える第5次対日相互審査を見据え、国際基準に沿った制度基盤の整備が急務となっています。さらに国内的にも、特殊詐欺やマネーロンダリングを行う「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」がペーパーカンパニーや法人口座を悪用する事件が相次いでいます。警察庁の資料によると、2021年9月から2023年8月にかけてマネーロンダリングを行っていた会社役員らの事件では、逮捕当時、約500社のペーパーカンパニーに係る約4000の法人口座を管理していた事例もあり、法人の連鎖の背後にいる自然人を把握しやすくする狙いがあります。
今回の制度案では、日本の土地や建物を所有する法人の透明化も視野に入れています。具体的には、国内で継続的に取引を行う外国法人や国内に事務所を置く外国法人に加え、日本国内の不動産を取得・所有する外国法人に対してもBO情報の届出義務を課す案が示されました。また、国内不動産を所有する内国法人の議決権を25%超取得してBOが変更された場合にも届出を求める仕組みが盛り込まれています。これは外国人の土地取得を一律に禁止・制限するものではなく、法人を通じた不動産所有における背後の支配関係を透明化するアプローチです。
実効性を確保するため、制度案には強い履行確保策も盛り込まれました。既存法人に対しても法施行後に一定期間内の届出を求め、未届の法人には催告を行った上で過料を科し、隠蔽目的の虚偽届出など悪質な違反には刑事罰を検討します。さらに、届出期限から3年間届出を行わなかった場合、登記の閉鎖などの措置を講じる案も示されています。
一方で、制度の対象となる企業側や経済団体からは慎重な制度設計を求める声が上がっています。日本商工会議所と東京商工会議所は意見書で、国際的な信頼維持における制度の必要性を認めつつも、上場企業を除く全法人に罰則付きで義務を課す影響の大きさを指摘しました。特に「3年間の未届による登記閉鎖」については、役員変更等の登記をしないまま最後の登記から12年経過した株式会社に解散登記が行われることと比較し、3年間での登記閉鎖は「短期間である」として再考を求めています。全国中小企業団体中央会も、実際の株券交付がない株式譲渡や長期不登記の同族企業の実態を挙げ、届出を機に親族間で支配権の認識の相違が顕在化する懸念を指摘し、手続の簡素化やサポート体制を要請しました。
登録情報の閲覧権限も重要な論点です。政府案では公的登録機関が保持するBO情報について、法令で定める事務を行う行政機関や、特定事業者のうち届け出た法人の同意を得た場合(銀行等は同意不要とする方向も検討)に閲覧を限定する方針です。これに対し有識者からは、マネーロンダリング対策にとどまらず経済安全保障や許認可行政など幅広く有効活用できる制度にすべきだとの提案が出されています。政府は新たな法律による制度整備を予定しており、法人の透明性向上と企業負担、個人情報保護をどう両立させるかが今後の制度設計上の論点となります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













