欧州連合(EU)の旗。欧州委員会は2026年10月20日、推計300億ユーロ規模の産業脱炭素化支援構想「Investment Booster」について、制度設計に関する意見交換会を開催しました。(資料写真)
今回のニュースのポイント
欧州委員会気候行動総局(DG CLIMA)は10月20日、産業脱炭素化投資の支援制度「Investment Booster」の制度設計に関する意見交換会を開催しました。本制度はEU排出量取引制度(EU ETS)の排出枠4億単位を活用し、推計300億ユーロ規模の支援を目指す構想です。産業熱の電化、水素、二酸化炭素回収・貯留(CCS)などを対象に、要件を満たした案件を申請順に支援し、実際の排出削減量に応じて排出枠を配分する仕組みが検討されています。なお、今回の協議は制度案の討議であり、予算執行の決定ではありません。
本文
欧州委員会の気候行動総局(DG CLIMA)は2026年10月20日、EU域内における産業脱炭素化投資を後押しする新たな支援枠組み「Investment Booster(インベストメント・ブースター)」の制度設計および運用方法について、産業界や加盟国などの関係者を集めた意見交換会を開催しました。本制度は、EU排出量取引制度(EU ETS)の排出枠4億単位を活用し、推計300億ユーロの資金支援動員を目指す構想です。今回の意見交換会は制度案の検討に向けた協議であり、現時点で300億ユーロの直接支出や具体的な企業向け交付が確定したわけではありません。
Investment Boosterは、EUが構想する総合的な金融枠組み「Industrial Decarbonisation Bank(産業脱炭素化銀行、IDB)」の第1段階として位置付けられています。IDB全体ではEU ETSなどの資源を活用し、約1000億ユーロ規模の資金動員を目指しています。産業界が抱える初期投資負担、低炭素エネルギーや原材料のコスト、技術・市場リスクなどを背景に、事業の採算性を改善することが制度の目的です。
欧州委員会が提示した協議文書によると、主な支援対象の経路として「電化」「水素」「二酸化炭素回収・貯留(CCS)」の3分野が軸として整理されています。電化では産業プロセス熱や排熱利用、水素では鉄鋼や化学分野での化石燃料代替、CCSではセメントや石灰など工程排出が避けられない産業でのCO₂回収が想定されています。さらに、リサイクル原料や代替材料の活用といった循環型技術を独立した第4の経路として追加する可能性も議論されていますが、具体的な対象範囲は今後の協議により確定されます。
本制度の大きな特徴は、従来の競争入札方式とは異なり、要件を満たした申請を受け付け順に支援する「First in, First-Served(FIFS)」方式の採用が提案されている点です。成熟度の高い技術を活用して迅速に事業を進められる案件に対し、予測可能性の高い支援を素早く提供することを重視しています。ただし無条件の先着順ではなく、事業の適格性審査に加え、完工保証に相当する銀行保証の提出などが求められます。契約締結と銀行保証の正式受領を経て優先リスト(Booster Registry)に登録された日付が正式な優先順位の基準となる厳格な仕組みが構想されています。
支援額の算定には、削減された温室効果ガス1トン当たりにあらかじめ設定された「固定カーボン・プレミアム」を用いる方針です。事業開始後、実際に達成・検証された排出削減量に応じて、相当する価値のEU ETS排出枠が定期的に配分される仕組みが想定されています。事業者は付与された排出枠を市場で売却して資金化するか、自社の排出規制の履行に充てることができます。現金が直接給付されるだけの単純な補助金制度とは異なる設計となっています。
また、採択後の事業停滞を防ぐため、迅速な事業執行を促す条件が盛り込まれています。正式承認から30カ月以内に現場での本体工事や組み立て作業といった「物理的な建設工事」を開始することが条件とされ(許認可取得や設計調査などの準備作業は含まず)、期限に遅延した場合は提出された銀行保証の全額が請求される仕組みです。さらに、工事開始後の操業開始が指定期限に遅れた場合には保証額の50%が請求対象となるなど、確実に稼働へ至るプロジェクトへ資金を集中させる配慮がなされています。
支援規模となる4億単位の排出枠のうち、当初1億単位については1人当たりGDPがEU平均の75%未満である低所得加盟国の事業向けに優先留保される計画です。残りの3億単位はすべての加盟国に開放され、域内全体のバランスと連帯に配慮した設計となっています。本制度の実際の支援開始は関連する改正EU ETS指令の発効時期に左右され、協議文書上では2028年から2030年を初期段階の実施期間として見込んでいます。
今回の協議は、EUが産業脱炭素化に向けた資金規模のみならず、採択手続きの迅速化や履行担保といった具体的な運用設計に着手したことを示しています。今後は立法手続きの推移や支援対象技術の精査、固定プレミアムの水準設定などが焦点となります。制度の最終的な枠組みは今後の協議により変更される可能性があり、立法プロセスの進展が注視されます。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













