NTT、光のエネルギーを熱になる前に電流へ変換 260GHzの超高速応答を実証

2026年10月22日 17:01

半導体チップフォトニックイメージ

光を電気信号に変換する半導体チップのイメージ。NTTは2026年10月22日、二次元半導体「黒リン」を用い、光の吸収によって生じた高エネルギーの電荷「ホットキャリア」を、熱としてエネルギーを失う前に電極へ取り出す光電変換を実証したと発表した。室温・ゼロバイアス条件で260GHzの動作帯域を確認しており、高速光通信や高効率光検出への応用が期待される。(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

NTTは2026年10月22日、二次元半導体「黒リン」を用い、光を吸収した直後の高エネルギー電荷「ホットキャリア」を熱としてエネルギーを失う前に電極へ取り出す新たな光電変換を実証したと発表しました。独自のオンチップTHzエレクトロニクスにより、室温・ゼロバイアス条件で260GHzの動作帯域と410±30フェムト秒の光電流減衰時間を直接観測しました。超拡散を利用した本成果は、将来の高速光通信や高効率光検出への応用が期待されます。

本文
 NTT株式会社は2026年10月22日、二次元半導体の一種である「黒リン」を用いて、光励起直後の高エネルギー状態にある電荷「ホットキャリア」を、熱としてエネルギーを失う前に電極へ直接取り出す新しい光電変換技術を実証したと発表しました。

 独自の超高速電流計測技術を活用し、室温かつ外部電圧を印加しないゼロバイアス条件において、260GHz(ギガヘルツ)という極めて高い動作帯域を確認しました。従来は光励起された電荷が余分なエネルギーを熱として失っていたのに対し、本成果はその前に電気信号として活用するための新たな設計指針を示すものであり、将来的な高速光通信や高効率な光検出器への応用が期待されます。

 情報通信や各種センサーで用いられる一般的な光検出器(フォトディテクタ)では、半導体が光を吸収して生じた電子や正孔(キャリア)が、エネルギーの一部を熱として失って安定した状態(コールドキャリア)へ移行した後に電極へ取り出されます。光吸収直後の高エネルギー状態であるホットキャリアは数百フェムト秒から数ピコ秒(1ピコ秒は1兆分の1秒)という極めて短い時間で冷却されてしまうため、存在自体は知られていたものの、電極へ移動させて電流として直接取り出す過程を測定することは困難でした。今回の研究の新規性は、ホットキャリアの存在確認にとどまらず、冷却前に電極へ取り出される光電流そのものを直接観測した点にあります。

 NTTは、高いキャリア移動度を持つ厚さ15〜25ナノメートルの黒リン薄片をサファイア基板上に配置し、独自の計測手法である「オンチップTHzエレクトロニクス」を構築しました。フェムト秒(1フェムト秒は1,000兆分の1秒)レーザーパルスを用いたスイッチングにより、約0.5ピコ秒という高い時間分解能で電流波形を取得することに成功しました。

 実験の結果、ゼロバイアス条件で半値全幅約1.7ピコ秒の鋭い光電流パルスを観測しました。測定系の影響を取り除いて解析した黒リン内部の光電流減衰時間は410±30フェムト秒であり、時間波形から導出された動作帯域は260GHzに達しました。なお、この260GHzは光検出器としての応答速度を示す帯域であり、実際の通信速度を直接示すものではありません。

 さらに研究チームは、酸化亜鉛(ZnO)ゲートを用いて黒リンのキャリア状態を正孔伝導(p型)から電子伝導(n型)まで連続的に制御する実験を行いました。その結果、冷却後のキャリアによる低速成分はゲート電圧によって流れる向きが反転したのに対し、高速成分はキャリアの極性にかかわらず常に同じ向きへ流れることが判明しました。この結果についてNTTは、高速成分がホットキャリアの極めて速い空間拡散現象である「超拡散」によって生じると考えるのが最も整合的だと説明しています。

 今回の実証は、これまで熱損失となっていたエネルギーを電流として回収する新たなアプローチを示すものです。また、外部電圧をかけないゼロバイアス動作は、暗電流や消費電力の低減に有利とされています。ただし、本段階は基礎的な物理現象と原理の実証であり、具体的な光電変換効率の改善率や実機での消費電力削減率、商用製品への搭載計画などが決定・算出されたわけではありません。

 NTTは今後、層の積層構造や電極材料の最適化、光吸収を高めるナノ構造の導入などを進め、冷却前に電極へ到達するホットキャリアの割合を高める研究を継続する方針です。本研究成果は2026年5月13日付で英科学誌「Nature Communications」にオンライン掲載されており、2026年11月18〜25日に開催予定の「NTT R&D FORUM 2026」にて展示される予定です。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)