安倍晋太郎首相が2月に経団連など財界3団体のトップに、業績の改善している企業の社員の報酬アップを要請した。政府主導による景気回復策が、庶民レベルでも実感できるようになるまでにはなかなか時間がかかる。企業が内部留保を優先しないようにクギをさす意味もあったのかもしれない。ただ首相が一般企業の報酬アップを経済団体トップに要請するのは異例なことだ。
3月11日にはインターネット検索国内最大手のヤフー<4689>が、人事報酬制度の改定に伴い、全従業員の2013年の年収が単純平均で約5%アップすることになるという内容の発表をした。対象となるのは、本社社員約3800人と、同じ人事報酬制度を採用する子会社の社員だという。
このヤフーのニュースに先んじて、コンビニ大手3社も、やはり社員の報酬アップを発表している。3社の内で最初に発表したのがローソン<2651>で、主に20歳代から40歳代までの子育て世代の社員およそ3300人を対象に、年収3%アップを賞与分で充当するというもの。続いて業界トップのセブンイレブン-ジャパンを傘下に持つセブン&アイホールディングス<3382>では、グループ54社5万3000人を対象に定期昇給とベースアップで年収を1.5%アップさせるという方針を打ち出し、ファミリーマート<8028>でも社員2700人に対して、定期昇給で1.5%、ボーナスで0.7%の報酬アップを発表した。
いずれも一般人にとって身近な企業の思い切った施策のように思える。が、雇用問題などに詳しい人物に聞いてみると、「ローソンの場合は、パフォーマンスとまではいわないけれど、とにかく首相の要請に最初に応えるということに意味があったのだと思います。対象となる社員には社長自らメールで、収入が増えた分は購買に使ってほしいとお願いもあったようです。コンビニの他2社があわてて追随したのには、優秀な人材がローソンに流れるのを避けるためだという見方もあります。どちらにしてもコンビニはじめ流通業界は、本社の正社員はそれほど多くないところがミソです。実際に現場で働いているのはほとんどが加盟店のスタッフや、直営店でもパート従業員で、今回の報酬アップ策の恩恵は受けることはできないのです。ヤフーの人事報酬改定に関しても、グループ会社も含めて完全な実力主義に移行するための整備のひとつだと考えたほうが無難でしょう」と、冷ややかな見解を示している。
日産<7201>、ホンダ<7267>、スバル(富士重工業<7270>)といった自動車メーカー大手も、今年の春闘における組合側の一時金に関する要求に対して満額回答している。これからもベースアップ回答をする企業は少なくないだろうが、それが国内の消費をすぐに刺激するかどうかは、今のところ判断が難しいところだ。円安による企業の業績回復よりも、円安によるさまざまな値上げや復興特別税・消費税を含む増税による支出増のほうが気がかりだというのが消費者の本音ではないだろうか。(編集担当:帯津冨佐雄)