新政権が発足してからの好感触な景気、また、政府の要請を受け、大手コンビニエンスストアチェーンを筆頭に賃上げする企業が増加。しかし、こうした景気のいい話は社会全体に広がっているわけではなく、ごく一握りの企業に限られているようである。
4月に入り、厚生労働省が発表した「毎月勤労統計調査 平成25年2月分結果速報及び平成24年年末賞与の結果」によると、現金給与総額は前年同月比0.7%減と2か月ぶりに減少。所定内給与は同0.6%減と9か月連続の減少、所定外給与も同3.5%減と5か月連続の減少となっている。結果、所定内給与と所定外給与を合わせた、決まって支給する給与(定期給与)は前年同月比0.8%減と9か月連続の減少であった。一方、一時金などの特別に支払われた給与は前年同月比8.2%増となっており、実質賃金指数(現金給与総額)は前年同月と同水準であった。
さらに、春闘に対する東証1部上場企業の回答・妥結状況をみると、製造業の平均月額は前年比1.96%増となる6204円増、金額では前年の回答額よりマイナス115円。非製造業は6201円で、前年比1.81%増、プラス494円となっている。この金額は、いわゆる定期昇給分を含む数字であり、賃上げが実施されたとは言えない状況にある。
さらに、前出厚生労働省の調査によると、常用雇用は前年同月比0.3%増と84か月連続の増加となったものの、就業形態別に前年同月比をみると、一般労働者が0.6%減、パートタイム労働者が2.9%増となっており、雇用の安定も進んでいないようである。
これら厚生労働省のデータはあくまでの2月の数字であり、4月から開始された改正高齢者雇用安定法の施行等を受けて状況は変化している。企業の業績が目に見えて回復していない中、雇用の安定を図ろうとすれば、賃金に影響が出るのは必至である。そうした中でも一時金の増額を実施する企業が増加したことは一定の評価をすべきであろう。しかし一部では「賃上げがなされなかった」「アベノミクスの効果がみられない」と報じるものも少なくない。これはあまりにも時期尚早かつ一面的な評価ではないだろうか。賃上げの可否やアベノミクスの効果などを評価するには、今暫く様子を見る必要があるはずである。(編集担当:井畑学)