フォード豪州工場閉鎖とトヨタ・オーストラリア

2013年06月09日 17:13

 2001年から順調に伸びていたオーストラリア国内での新車販売は2007年をピークに頭打ちとなり、2008年の三菱自 動車の工場閉鎖に続き、今月23日にはフォードの自動車生産打ち切りが発表され、豪州自動車業界に危機感が募っている。フォード・オーストラリアは、 2016年10月に自動車製造から撤退する。

 フォードを撤退に 追い込んだ第一の要因は、豪ドル高であろう。2003年6月には1豪ドルは0.65米ドルであったのが、2011年中ごろには、豪ドルが米ドルより高くな り、今でも10.95米ドルと、豪ドル高が続いている。円と比べても、10年前、1豪ドルは77円前後であったのが、100円前後の円安になっている。豪 ドル高に伴い、輸入車に割安感が生まれた。輸入車の関税が5パーセントと低率に抑えられており、2006年には、乗用車の新車販売の約75パーセントが輸 入車だったが、2011年には80パーセント近くにまで上昇、現時点でも、国内生産車の販売は伸び悩んでいる。加えて、豪ドル高は、自動車輸出に打撃を与 えている。2011年の完成車および部品の輸出総額は33億豪ドル(3200億円)で最盛期の6割にとどまった。

 なお、完成車および部品の輸入は、日本からの輸入が約30パーセントで第一位である。EU圏、NAFTA(米国、カナダ、メキシコ)が続いている。輸出先は、中東が三分の一を占め、第二位のNAFTAの約12パーセントを大きく引き離している。

 第二の要因は、原油価格の上昇である。2003年には1バレル=30米ドル前後(ブレント原油)、2008年に140米ドルまで上昇した後に急落、現在は 100米ドル超で高値安定している。豪州国内のガソリン小売価格も値上がりし、10年前には1リットル=80セント前後だった無鉛ガソリンが、2008年 には1ドル50セント前後へ上昇、現時点で1ドル60セント程度である。ガソリン値上がりは、大型車から中型車へ、中型車から小型車への買い替えを引き起 こした。豪州では、平均で10年近く車を乗り回すため、中古車の売買が多い。中古車市場では、燃費の悪い大型乗用車は敬遠され、小型車に良い値段がつく。 将来の下取り価格を考慮すれば、最初から小さめの新車を購入するのが経済的なのである。2006年には6気筒エンジンが主力の大型乗用車が新車販売の2割 を超えていたが、2011年には14パーセントへ下落、台数では6割に落ち込んだ。カムリクラスの中型車は微減、小型車の販売が増加した。

 新車市場も中古車市場も、燃費の良い小型車へと人気が移っているのだが、豪州の自動車製造はほとんどが大型車と中型車に限られる。小型車は価格が安めに設定 され、一台あたりの利潤が薄く、しかも年間新車販売が100万台程度の豪州市場では薄利多売が難しい。製造コストの安い東南アジアで大量生産し、その一部 を豪州へ輸入するほうが低コストである。GMホールデンはコモドール・キャプティバ、クルーズなど、フォードがファルコン、テリトリー、パフォーマンスな どを豪州国内で生産している。

 第三の要因は、自家用車保有率の頭打ちである。先進国の人口1000人当りの自家用車保有率は、ここ5,6年ほとんど増加が見られない。日本では2006年の594台、英国では2007 年の527台、米国では2008年の815台を最高に微減ないし横ばいに転じている。豪州での保有率は2010年の統計で695台、前年より3台増えたが ほぼ横ばいが続いている。

 トヨタ・オーストラリアは、こうした 国内市場の厳しい情勢を見越し、GMホールデン、フォードとやや異なる事業展開をしている。一つ目は、6気筒エンジンではなく、4気筒の中型車カムリを生 産の主力に据える戦略である。大型車は利潤が大きいが、量産効果によるコストダウンが見込めないことを見越した戦略といえる。カムリとオーリオンが豪州の トヨタ工場で生産されている。

 二つ目は、ハイブリッド車の現地 生産である。年間1万台の生産能力のある、カムリ・ハイブリッド(排気量2.4リットル)の生産ラインを2009年12月に完成させ、オーストラリア初の ハイブリッド車生産に踏み切った。2012年12月には、3億3100万豪ドル(320億円)をかけたハイブリッドエンジンプラントも完成、日本からの輸 入に代えて、排気量2.5リッターのハイブリッドエンジンの現地生産も開始した。

 三 つ目は、海外への輸出戦略である。フォード・オーストラリアは国内市場に頼って挫折したが、トヨタ・オーストラリアは海外へ展開、豪州のトヨタ工場で生産 されるカムリの70パーセントは海外向けである。輸出車の97パーセントが中東諸国に輸出されている。昨年度は、カムリとオーリオンのセダンをあわせて年 間約70,000台を輸出した。さらに加えて、今年は、年間生産予定のハイブリッドエンジン10万8千基のうち1万8千基を、タイとマレーシアのトヨタ工 場に輸出する計画である。

 もっとも、自動車産業を取り巻く情勢 は依然厳しい。原油高が続けば、小型車へのシフトが続くと考えられる。2003年4月の豪州での新車販売台数の首位はトヨタ・カローラ(3504台)、ト ヨタ・ハイラックス(2932台)、マツダ3(2842台)、ホールデン・クルーズ(2290台)、ヒュンダイi30(2150台)と続いた。カローラも ハイラックスも人気ブランドながら、豪州国内生産ではなく、輸入車である。昨年初め、トヨタは一部従業員の解雇に踏み切り、2022年までは豪州で自動車 生産を継続すると公言しているGMホールデンも、トヨタに続いた。近い将来、小型ハイブリッド車が人気車種に躍り出るのは十分予測されるが、コスト面からは、豪州 トヨタ工場では小型車を生産せず、東南アジアの工場から輸入するほうが合理的なようだ。(編集担当:轟和耶)