2012年4月に矢野経済研究所が発表した「車載用半導体の世界市場に関する調査結果 2012」によると、車載用半導体の世界市場規模は、電気自動車やハイブリッド車の普及に伴って、パワー半導体やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)センサーを中心に平均7.8%の年平均成長率で拡大を続け、2020年には403億米ドル(約4兆円)に達するとみられている。
日本での新車販売数をみても、トヨタ<7203>のプリウスやアクアなどのハイブリット車が販売数の上位を占めており、需要は今後も拡大することが予測される。こうした状況からも、半導体部品の小型化、高効率化、さらなる低消費電力性能が求められるのは必然で、メーカーによる車載用部品の開発競争が激しさを増している。
中でも、自動車のエレクトロニクス化が進むにつれ、マイコンやメモリの搭載個数が増加している状況下で、より効率が高く、大電流供給が可能な電源ICはもっとも必要とされている車載部品の一つだ。これまで一般的に電源ICとして使用されてきたLDOレギュレータより、高効率で大電流を供給できるDC/DCコンバータへの移行が進んでいるが、実装面積の増大と回路設計が非常に難しく、設計負荷が増大してしまうということが大きな課題となって、導入を遅らせる原因となっていた。
しかし、このたびローム株式会社<6963>が開発した電源ICが、その課題をクリアしたことで、関係各社から大きな注目を集めている。同社が新しく開発した電源IC「BD905xxシリーズ」は、電源容量不足時のセカンダリ電源として活用されるもので、入力電圧は2.69~5.5V、周波数は2.25MHz。車載向けのマイコンやDDRメモリなどの電源に最適な小型・高効率の製品だ。
同シリーズの一番の特長は、電源ICを安定動作さるための位相補償回路をICパッケージの内部に取り込み、最適化したことだ。そうすることで、コンデンサや抵抗器などの外付け部品点数を大幅に削減し、実装面積を従来の約2分の1にまで縮小できた。さらに、内蔵化したことで自動車部品メーカーが回路設計にかかる工程を軽減し、開発時間の短縮にも貢献する。内蔵化すると安定動作が難しいという懸念もあったが、ロームがこれまで培ってきたアナログ技術を駆使して安定させることに成功している。また、電気自動車やハイブリッド車の普及が世界的に加速し、さらなる低消費電力化が求められる中、最大90%以上の大幅な高効率化も実現している。
かつて、日本の経済成長を支え、牽引してきたのは紛れもなく自動車産業だ。日本車はその性能の高さと信頼性で圧倒的な人気を獲得し、日本を世界に冠たる自動車産業大国に押し上げた。自動車産業無くして、今の経済大国日本はないといっても過言ではないだろう。近年、中国や韓国企業などの世界進出も目覚しく、日本の自動車メーカーをはじめ、部品、半導体メーカーも岐路に立たされていることは否めない。しかし、今回ロームが開発した新しい電源ICは、電気自動車を次へ導く技術であるだけでなく、日本の技術力を改めて世界市場に知らしめ、日本メーカーの健在ぶりをアピールする意味でも、非常に大きな価値があるのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)