「シェール革命」でモノづくり大国の復活

2013年06月16日 19:02

 近頃、メディアでよく目にする「シェール革命」。頁岩層から採れる資源には「シェール・ガス」と「シェール・オイル」があり、「シェール革命」の「シェール」はこの両者を意味する。

 新聞や雑誌、そして経済・産業関連のWEBサイトの記事を読むと「シェール革命」には二つの意味を読み取れる。まず、資源として地中に眠っている石油と天然ガスの採掘・回収できる効率性に焦点をあてたもの。頁岩(シェール)層に滞留した石油や天然ガスが長い時間をかけて移動し、砂岩層に貯留された石油や天然ガスを「在来型石油・天然ガス」と呼ぶ。もともとは頁岩層に在ったものという意味で頁岩を「石油根源岩」ともいう。この根源岩に滞留していた20%が砂岩層に移動し実際に採掘できるのは0.7%とされている。頁岩層から「水圧破砕法」によって石油や天然ガスを取り出すと5.6%の石油や天然ガスが回収され、すなわち8倍の量が採取できることから、このことを「シェール革命」と呼んでいる。頁岩層のナノメートル(1 メートルの10億分の1)サイズの隙間に閉じ込められているガスや油は「クヌーセン拡散」という現象によって隙間を移動しやすくなることから回収率が向上する。

 もう一つは、採掘された「シェール・ガス/オイル」によって経済・産業に及ぼす影響を「シェール革命」と呼んでいる。日本政策投資銀行が2013年02月18日に発表した調査レポート「シェール・ガス革命の見方」にはシェール・ガスの生産によって米国の天然ガス輸入量は11年には0.6%まで下落し、20年頃には天然ガスの輸出国になり、40年頃には天然ガス貿易収支で約450億ドルの黒字になると試算している。また、国際エネルギー機関(IEA)が11年に発表した「世界エネルギー見通し」によると、米国は17年にはシェール・オイルの生産によってサウジアラビアの石油産出量を追い越し、世界最大の資源国になるとしている。赤字の貿易収支が黒字に転換するだけで「シェール革命」と言える。

 このように安価な採取手法によるコストの安い天然ガスと石油が自国で調達できるとなると、まず天然ガスによる火力発電が増加する。燃焼時の二酸化炭素排出が石油や石炭と比較して大幅に少ないことから石炭火力発電が火力発電にシフトしていくことは当然の成り行きだ。安価な天然ガスを使っての発電は電気料金も安くなる。

 中国での人件費高騰や輸送費の増加などから製造コストが高くなった米国の製造業は、安価なエネルギーが手に入り、トータルとしての製造コストの安くなった米国内に戻ってきている。中国以外に安価な労働力はあるが、熟練した労働者ではない。その点、米国内には熟練労働者が大勢いる。米ゼネラル・エレクトリックはルイビル工場に生産設備の増強のため総額10億ドルの投資をし、中国などに移管していた生産を米国に戻した。化学大手のダウ・ケミカルはテキサス州に40億ドルを投じて最新の工場を作り、シェール・ガスを原料としたエチレンを生産する。工場の移設・増強は海外の企業にも及び、英ロールスロイス、独シーメンス社など設備の増強、新工場の設立など米国での生産を拡張している。日本ではトヨタ自動車がケンタッキー州の工場を増設し、高級車レクサスの現地生産を2015年から始めることを決めている。

 このようにものづくりが米国に復活することが日本に影響を及ぼすことは確実だ。日本に米国産の天然ガスや石油が輸入されたとしても、ガスの液化と輸送コストがかかってくるために米国ほどの安価なエネルギーが手に入るわけではない。安価なエネルギーを求めるなら米国での生産になるだろう。米国の「シェール革命」を目の前に、日本の産業界は戦略を見直さなければならない。(編集担当:西山喜代司)