NYダウは206ドル安で3日ぶり反落。今月最大のイベント、FOMC後の声明は量的緩和政策堅持だったが、バーナンキ議長が記者会見で「経済指標が年率2%のインフレ目標などと整合的であれば、現時点で年内に証券購入のペースを緩やかにするのが適切と考える」「これはFOMCのコンセンサス」「来年前半を通じてゆっくりしたペースで証券購入の減額を進め、年半ばで終了させたい」と発言した。ここまではっきり言われると「量的緩和年内縮小開始・来年半ば終了」がロードマップ(行程表)として市場に定着してしまう。緩和解除条件の失業率の目安もいつの間にか6.5%が7.0%になっていた。取引終了直前だったためNYダウの下落幅はこの程度だったが、20日以降が心配。「バーナンキ・ショック」で為替はドル高円安が進行し、20日朝方の為替レートはドル円が一時97円台をつけて96円台後半、ユーロ円が128円台前半になっていた。
日経平均は143.37円安の13101.85円で始まる。これは前日までに織り込んだFOMC期待分がはげ落ちたためと思われるが、30分足らずで13000円を割り込んで12966円まで下げたのは為替が30銭足らずでも円高に振れた影響。「前日比で1円の円安になっても、直近10分で10銭円高に動けば日経平均は50円近く下落」という超短期の反応式になっていて、後で底を打って13190円まで上がったのもその逆の反応である。10時45分に中国の6月のHSBC製造業購買担当者景気指数(PMI)速報値が発表され、50台回復どころか48.3で5月の49.2からさらに悪化し9カ月ぶりの低水準。5月23日の暴落の引き金になった指標なので市場の関心は高かったが、上海市場、香港市場の指数は年初来安値を更新しても東京市場への影響は一時的で、すぐに13100円台に戻した。
後場は13100円前後で安定していたが、午後2時前から再び下落して13000円を割り込む。その原因は為替ではなく中国とインドの突然の金融不安。日経平均終値は230.64円安の13014.58円で、大引けでかろうじて13000円台を維持した。TOPIXは-14.76の1091.81で5日ぶりに反落。売買高は28億株、売買代金は2兆2962億円だった。
アメリカの量的緩和政策は世界の「マネーの泉」なので、バーナンキ発言通り来年にかけて緩和マネーが縮小するとリスクオフが世界をおおい、東京市場もそうだが新興国マーケットはもっと厳しい事態に陥ると想定される。早くもこの日、中国では短期金利が中小金融機関、中小企業を窮地に追い込みかねない史上最高水準まで急騰し、インドでは通貨のルピーが対ドルで大幅に下落した。日本でも韓国でも中国でもインドでもブラジルでも通貨安、債券安、金利高、株安が同時進行し、今後、バーナンキ・ショックの世界経済への悪影響が心配される状況になった。
値下がり銘柄は1168で値上がり銘柄465の2.5倍もあり、業種別騰落率のプラスは水産・農林、空運、陸運、食料品、非鉄金属の5業種のみ。マイナス幅が大きいのは不動産、鉱業、その他金融、証券、医薬品などだった。
日経平均マイナス寄与度1、2位はファーストリテイリング<9983>とファナック<6954>で、合わせて日経平均を46円押し下げた。ソフトバンク<9984>は値動きなし。アメリカの長期金利は2.359%と1年3ヵ月ぶりの高水準で、日本でも長期金利が朝方一時0.85%まで上昇した。銀行株は三井住友FG<8316>はシティグループ証券も目標株価を引き上げて30円高と続伸し売買代金3位に入り、みずほ<8411>は1円高だったが三菱UFJ<8306>は11円安。一方、不動産は軟調で、三井不動産<8801>は105円安、三菱地所<8802>は66円安、住友不動産<8830>は180円安で、値下がり率9位に東京建物<8804>、同15位に東急不動産<8815>が入っていた。
円安でも輸出関連株は明暗が分かれる。自動車は富士重工<7270>は23円高、マツダ<7261>は8円高だったが、トヨタ<7203>は60円安、ホンダ<7267>は55円安、いすゞ<7202>は40円安。前日好調だった鉄鋼はJFEHD<5411>が37円高でも新日鐵住金<5401>が2円安、神戸製鋼<5406>が3円安だった。電機は東芝<6502>3円安、日立<6501>15円安、パナソニック<6752>21円安、シャープ<6752>11円安と全般的にふるわない。一方、ビール大手のアサヒGHD<2502>は97円高、キリンHD<2503>は68円高、電力小売参入が伝えられたKDDI<9433>は40円高、日本製紙<3863>は74円高、ヤマトHD<9064>は51円高、JR東海<9022>は630円高と、内需系が健闘をみせていた。
中国、インドの金融不安で、中国関連株のファナックは470円安、コマツ<6301>は91円安、日立建機<6305>は116円安で、インド関連株のスズキ<7269>は139円安で値下がり率7位に入った。その他、クボタ<6326>が5位、ニコン<7731>が10位、富士通<6702>が12位と、ふだんは縁が薄い主力株が値下がり率ランキングをにぎわせる。TDK<6762>、キヤノン<7751>もこの日は売られていた。
買いを集めたのは低位株やテーマ株で、値上がり率1~3位の神栄<3004>、ベスト電器<8175>、日本化学工業<4092>は株価300円未満。9位のローランドDG<6789>は3Dプリンター関連、11位のサニックス<4651>はソーラー関連の銘柄。JAL<9201>は外国人株主への配当制限撤廃が好感されて80円高になり、富士急行<9010>は富士山5合目まで電車路線を延長する構想を打ち上げ22円高と買われていた。
ソニー<6758>は午前10時から株主総会を開催し、エンタメ事業を分離してアメリカで上場させるサード・ポイントの株主提案は、冒頭で平井一夫社長が採決を先送りにした。時間をかけて取締役会で検討を続ける構え。株価は終盤売り込まれて2円安だった。
この日の主役は24円高のGSユアサ<6674>。日経新聞朝刊にボッシュ、三菱商事<8058>と次世代リチウムイオン電池の開発で提携すると報じられ、取引時間前にGSユアサが正式に発表した。記事によるとエコカーの走行距離が従来の2倍に延びるという。来年1月設立の共同出資会社に共に25%出資する三菱商事は7円安。リチウムイオン電池の材料を提供する戸田工業<4100>は10円高、チタン工業<4098>は11円高で、ともに前場は買いを集めていた。世界市場でのライバル、サムスンSDI、LG化学との競争が厳しく、ボーイング787の発火事故で1月17日に年初来安値の297円まで下げ、どうなるかと思われたが、自動車技術大国ドイツのボッシュという強力な味方がつき、「雨降って地固まる」というところか。(編集担当:寺尾淳)