真言密教の聖地、高野山。およそ1200年前の弘仁七年(816年)に弘法大師空海が高野山の下賜を請い、嵯峨天皇より開創の勅許を賜って開かれた日本屈指の霊場が今、変わろうとしている。
高野山はご存知の通り、和歌山県北東部に位置する標高1,000m級の山々の上に117もの寺院が点在する霊験あらたかな真言宗の聖地であるとともに、山内の6つの建造物が熊野、吉野・大峯と共に「紀伊山地の霊場と参詣道」として2004年7月7日、ユネスコの世界遺産に登録されたことで、海外諸国からも注目される観光地でもある。
和歌山は、11年9月の台風12号に伴う豪雨によって甚大な被害をこうむり、観光客も一時的に激減したものの、その後の観光キャンペーン等の成果により2012年は、前年比で5.6パーセント増加となる約2916万人の観光客を誘致することに成功し、被災前の水準にまで順調に回復しつつあることが、和歌山県の観光客動態調査によってわかった。
高野山の観光客も、外国人観光客とシニア層を中心に、宿泊客と日帰り客を合わせて前年比7パーセント増となる計125万9千人に伸びている。
そんな高野山が今夏、最新の家電を導入したことで話題になっている。その最新家電とは、近未来のフォルムが印象的な「羽のない扇風機」でお馴染みの、ダイソンのエアマルチプライアー。高野山では、ダイソンからの申し出により、「AM02リビングファン」25台、「AM01テーブルファン」5台、合計30台を7月9日より、大広間前の廊下や道場など各所に設置している。
高野山は標高の高いので、これまでは真夏でもエアコンなどを必要とするようなことはほとんどなかった。しかし、近年は温暖化の影響か、厳しい猛暑が続いており、参拝客のために設置に踏み切った。また、自然環境に配慮した製品である点も導入の理由の一つだという。
確かに、いくら暑いからといって、静ひつな聖地にエアコンの人工的な冷風は風情にも欠ける。その点、ダイソンのエアマルチプライアーならば、独自の技術で風を増幅させているので、元は高野山の自然の風というわけだ。しかも、デザイン性も高いのでイメージもよく、雰囲気も意外とマッチして、観光客の評判も上々だという。
さらに、ダイソンのエアマルチプライアーが設置された同じ日に、なんと24時間営業のコンビニエンスストア・ファミリーマート<8028>の高野山店が山内にオープンした。高野山にはすでに、コンビニ型の店舗が1店営業しているものの、24時間営業の店舗はこれがはじめてとなる。
高野山では、2015年春に高野山開創1200年記念大法会を控えており、大幅な増加が見込まれる参拝者への対応や地元住民の利便性を向上するべく、今回の出店が実現した。同店舗は高野山の景観条例に基づいて、ブロンズ色の瓦屋根にこげ茶色の板目の壁面を施した店舗となっており、従来の店舗と比べてもずいぶん落ち着いた外観となっている。
また、高野山という場所柄、生肉や刺し身は取り扱わない方針だという。ただし、酒類やタバコは通常通り販売しており、ATMも設置されている。
聖なる山、高野山にコンビニやダイソンという横文字文化が進出してくるのは、いささか場違いに思うかもしれないが、そもそも弘法大師空海が中国よりもたらした真言密教は、当時の日本の仏教でもインパクトの大きな最先端のものであったし、開祖である空海自身が、天文学や建築学などの当時の最新技術に傾倒していたというから、高野山のあり方としては決して間違いではないのかもしれない。(編集担当:藤原伊織)