外交テーブルにあった集団的自衛権の行使容認

2013年08月10日 16:17

EN-a_036

集団的自衛権の行使について、歴代内閣も、歴代内閣法制局長官も「現行憲法下においては集団的自衛権を有するが行使はできない」と解釈してきた。

 安倍晋三総理が米国オバマ大統領との約束履行に拍車をかけている。今年2月22日の日米首脳会談で安倍総理は歴代首相で初めて集団的自衛権に触れ「わが国自身の防衛力の強化に取り組んでいる」と伝え「集団的自衛権についての検討を開始し、これらの取り組みを日米同盟強化に役立つものにしていく」と説明した。米国への踏み込んだ協力を自ら表明したようなものだ。

 この首脳会談で集団的自衛権の行使に対する「政府解釈の見直し」は国内のテーブルから外交テーブルに移った。安倍総理が外交テーブルにのせたといえよう。

 集団的自衛権の行使について、歴代内閣も、歴代内閣法制局長官も「現行憲法下においては集団的自衛権を有するが行使はできない」と解釈してきた。そのことは世界に類のない「平和憲法」の下での防衛努力と外交努力を生み、戦争への道を回避するとともに、武力を背景としない平和外交が日本の外交戦略であることを国際社会から評価されるところとなっている。与党の公明党は歴代政府の憲法解釈を「妥当」としている。

 政府解釈はこうした状況から動かし難いものになっていた。安倍政権はこの壁を越えるために、内閣法制局長官の首を挿げ替えた。

「内閣法制局は内閣を直接補佐する機関」「責任は内閣がとる」。集団的自衛権の行使を容認する考えを有するとされる駐仏大使だった小松一郎氏を内閣法制局長官に任命することを政府は8日、閣議決定。菅義偉官房長官は閣議後の会見で「法制局は内閣を補佐する機関」「責任は内閣がとる」と繰り返した。

 内閣法制局長官は国会で政府の憲法解釈を説明するポストにある。内閣や総理、閣僚に対し、また内閣として国会に法案を提出する際にも、憲法に照らし、その法案に問題がないかどうかチェックする役割を果たしている。

 安保法制懇談会は集団的自衛権の行使を全面容認する方向で年内に報告書をまとめる意向とされる。菅官房長官は集団的自衛権行使全面容認ではさすがに与党の公明党や国民から理解は得られないとの認識があってか「集団的自衛権の行使については抽象論でなく、個別・具体的な事例ごとに行使できるか、できないかを示していくことが必要」とした。

 しかし、そもそも集団的自衛権の行使が現行憲法において「何らかのケースにおいて認められるのか」。国民が理解できるようにその根拠を示す責任は政府にある。

 認められることが明確にされたうえで、初めて「どのケースについて行使してよいのか」を個別・具体的に議論し、国民の前に明らかにしていくべきなのだろう。

 菅官房長官は「小松氏が外務省の国際法局長をし、条約局にも長く勤務した経験もあり、国際法の分野をはじめ豊富な知識と経験を有している」とし「人格・見識・能力を踏まえての適材適所の人事」と特定の意図を持っての人事でない旨を強調した。

 内閣法制局はいかような政権になろうとも、国家権力行使の縛り(原理原則)となる憲法の解釈について時の政権に左右されるものであってはならない。政権が変わるたびに憲法解釈が変わるような事態になれば「法の安定性」は損なわれる。安倍政権が憲法に反しないよう「憲法の番人」として、安倍内閣を補佐することこそが求められている。

 集団的自衛権の行使については解釈改憲という姑息な手法でなく、正々堂々「憲法改正」で国民から支持を得るべきだろう。その方が国際社会にもアピールできよう。国防のあり方を大きく変えてしまう要素もある。従って、内閣法制局長官には時の政府の意図に左右されることなく、客観的な憲法解釈を行う責務が国民に対してあることを常に覚えておいて頂きたい。

 安倍総理は憲法改正をしなければ集団的自衛権の行使はいかなるケースにおいてもできないという結論にいたる可能性も存在することをオバマ大統領に伝え、「その時には、時を要す」とすべき。日米関係を深化させるとは、それぞれのお家事情について風通しを良くするということでもある。(編集担当:森高龍二)