日本の翻訳業界に「ISO17100」のクロフネがやってくる

2013年10月15日 16:21

 こんな規定の「文書翻訳の国際規格」が登場する。ISO17100だ。これは、ある英国人がオーナーとして経営する翻訳会社で聞いた話だ。翻訳会社などに依頼して日本語のビジネス文書を英語に翻訳する場合、「最終的に英語のネイティブがチェックすべき」だ。そんなコト(感覚)は、当たり前で、既に一般的ではないだろうか?と思っていた。

 しかし、日本の翻訳業界では、この国際規格発行に揺れているらしい。どうも日本の翻訳現場では「翻訳に工業製品に課せられるような規格は馴染まないし、あり得ない」と考えられていたようだ。しかし、そんな常識は覆される。「翻訳の国際規格」が、2014年に施行されようとしている。検討されている翻訳の国際的な最新規格は、世界の翻訳業界の業務フローや単価にも影響を与える可能性を秘める。もちろん、日本語だけが例外ではない。

 現在、翻訳に関する国際的なISO規格が作られていて、早ければ2014年に発効される。これは『ISO17100 Translation services Service requirements』というタイトルで、翻訳者や翻訳会社が審査を受ける必要のある認証規格だ。2013年11月に、ほぼ確定すると予想されている。現段階の規格案(英文)は日本規格協会で購入できる。

 ISO17100は突然できたわけでない。「翻訳の国際ガイダンス」をベースに作成されている。その国際ガイダンスは、日本の翻訳業界でまったく話題にならなかった。が、日本の業界が関心を示さなかっただけで、ISO17100の発行に先駆け、国際的に合意・発行された「翻訳の国際ガイダンス」なのだそうだ。

 このガイダンスで重要なキーワード「Native言語」「母国語」だが、その定義は各国同じではない。ガイドラインよると国による違いはあるが、A-language(Native言語)、B-language(母国語)、C-language(習得言語)という言葉の定義がある。母国語はほとんどの場合A-languageに該当するが、例外もある。例えば、日系アメリカ人で米国に住んでいて、家庭では日本語を使い、学校やコミュニティでは英語を使って育った場合、その人のA-languageは英語の可能性があるからだ。ネイティブ言語が、「AなのかB」なのかは、その人の言語習得度によって異なる。

 このA、B、C-languageの定義は、翻訳の言語方向と関係が深いとされる。ガイドラインで推奨する言語方向は、B→A(++)、C→A(+)とされている。これを多くの翻訳会社などで行っている日本人による日英翻訳は、A→C(―)とされ、日本語ネイティブの日本人による日→英翻訳はもっとも推奨できないということになる。

 これが今後、翻訳の国際常識として、BまたはCからA-languageへの翻訳方向、つまりターゲット言語のネイティブが翻訳することがベストとされるのである。

 ある意味で、「子供の頃から海外生活を経験していない日本人翻訳者は、多言語から日本語への翻訳(だけ)をしなさい」というISO規格である。ただし、その場合でも、「翻訳者に正しい日本語力があること」が条件となる。(編集担当:吉田恒)