スマートフォンやタブレットPCの向きを替えると、それを自動で検知して表示を切り替えたり、ゲーム機のコントローラーを振る事で操作が楽しめたりするのは、現代では当たり前の技術となっている。これを当たり前にしているのは、モーションセンサという最先端の技術のおかげだ。また、デジタルカメラなどの手振れ補正機能や、最近流行のヘルスケアとフィットネス向けのウェアラブルセンサ、さらには、わが国の基幹産業の一つである自動車のエアバッグやESP、ABS、エレベーターの制御装置、2足歩行ロボットの制御機構などにまで、モーションセンサは使用されており、現代社会、そしてこれからの未来社会に向けて欠かせない技術といっても過言ではないだろう。
モーションセンサはその名の通り、人や物の動きを検知するもので、加速度センサ・角速度(傾き)センサなどの総称だ。他にも地磁気(電子コンパス)センサや衝撃センサ、圧力センサなどもモーションセンサの一種だ。とくに近年、急速に普及を続けるスマートフォンやタブレットPC、ポータブルゲーム機などの様々なアプリケーションにおいて、必須の技術となっている。
このセンサは、当然のごとく、指先でのタッチ操作や機器の傾きなど、様々な物理的変化に対し、微小な信号を検知できなくてはならない。これが検知できなかったり、過度に反応しすぎたりすると「反応が悪い」「使いにくい」などといわれてしまう。ところが、微小な信号を検知するためにはセンサ単体では無理で、センサ用アンプというものが必要になる。そして、このセンサ用アンプの開発には、繊細なアナログ技術、人の経験と技術力が必要とされるという。
たとえば、先ごろローム株式会社<6963>が開発を発表したオペアンプ「BD5291G / BD5291FVE」などがそうだ。同社は7月に開催された東京・台場の東京ビッグサイトで開催された「テクノ・フロンティア2013」でも「アナログパワー」というキャッチフレーズを掲げて話題となっているように、アナログ技術を自社の特長に掲げている企業だ。
モーションセンサ自体は微小な物理的変化も検出するが、それが小さいままではデジタル処理できなかったり、間違った値に変換されてしまう。また、高精度に増幅できなければノイズなどの余分が乗ってしまったりして、これも間違った値に変換されてしまう。そこで試されるのが、長年の経験によって培われた「職人技」ともいえる、人の技術だ。
ロームが開発した新製品の場合、「職人の技」とも言える設計技術によって、より小さい信号を抽出できる高精度を実現したことはもちろん、信号増幅の誤差であるオフセット電圧が少ないことも大きな特長となっている。さらに、微小なセンシングにもすばやく反応できる高スルーレートや、使用可能な電圧範囲が広く使い勝手が良い入出力フルスイングという特長も併せ持っている。
電子機器製品の市場では、近年、中国や韓国などのアジア勢の台頭も話題になっており、熾烈なシェア争いが繰り広げられている。しかし、いくらデジタル全盛の市場といっても、最終的にはこういった繊細な「人の技」が必要になってくるのだろう。そもそも、人の暮らしに根ざしたものづくりを行うためには、0や1だけのデジタル信号で処理ができるはずがない。日本製品が世界で愛される理由の裏には、部品レベルでの技術開発の底力がIT分野や一般消費財メーカーの商品開発を支えている現実があるのだ。(編集担当:藤原伊織)