“ロングノーズ・ショートデッキ”がスポーツカーのデザインを席捲するワケは?

2013年12月05日 12:16

Toyota200GT

第43回東京モーターショーのプレスデー前日のレセプションで展示された「トヨタ2000GT」。“ロングノーズ・ショートデッキ”FRスポーツの典型だ。

 東京モーターショー(TMS)が閉幕した。さて、「今回のショーで印象に残ったクルマは何ですか?」と聞かれたら、貴方の「回答は何」だろうか?

 国内メーカーの多くはパーソナルモビリティを標榜した小さなEV(電気自動車)によるカーシェアリングの実証実験車両を提案していた。ヤマハの4輪事業への参入もこのあたりからスタートしそうな気配で、「電気+カーシェア」を含めたインフラ構築が次回TMSまでの真面目で現実的な宿題となりそうだ。

 一方で、以前述べたヨーロッパ連合(EU)が大きな宿題とする「CO2削減計画」が、欧州メーカーをハイブリッド車(HV)やプラグインHV(PHV)開発を促進させた。とくにドイツ・メーカーは、予定を含めるとほぼ全社でHV/PHVをラインアップする見込みだ。

 と、そのさらに一方で、内外のプレミアムブランドが少数ながらスポーティなクーペを展示して来場者に夢を提供してくれた。メルセデス・ベンツSクラス・クーペ、ボルボ・コンセプト・クーペ、ジャガーFタイプ・クーペ、BMW i8、加えるならレクサスRCまで。大型でラグジュアリーなスポーツクーペである。

 しかも、それらは、どれもがスタイリッシュだ。何故か? それは「古典的なスポーツクーペの “ロングノーズ・ショートデッキ”レイアウト」だからだと気がついた人は多い。ロングノーズ・ショートデッキというレイアウトは、彼の初代フォード・マスタングがキャッチフレーズにして大ヒットしたとされる。「ロングノーズ」の意味は、その鼻先に長くて大きな高性能エンジンが載っていることの象徴。キャビン以降が短いのは、スポーツ性・回頭性の良さを表現した手法。だから、1960-1970年代のスポーツクーペである、コルベット・スティングレー、アストンマーティンDB4、ジャガーEタイプ、国産勢でもEタイプを模倣したといわれるトヨタ2000GT、フェアレディZ、さらに言うならスカイライン。どれも、エンジンの大きさを象徴するロングノーズだった。

 しかし、バブル期以降、本物のスーパースポーツはミッドシップ・リアドライブ(MR)のフェラーリなどショートノーズが認知されたのだが、ここ数年、“ロングノーズ・ショートデッキ”が圧倒する。

 きっかけは「フェラーリ・カリフォルニア」(2008年)だったかも知れない。V型8気筒をフロントミッドに搭載するためノーズは長く、それでも2+2座を実現したモデルだ。このモデルは、欧州や北米市場だけを狙ったクルマではなく中国・インドなどの富裕層をもターゲットにした。ただ、こうした新興国では富裕層であっても「2座ミッドシップスポーツ」は選択肢のボリュームゾーンにはならない。50年前の日本を思い出せば良い。スカイラインも117クーペも4人乗れたから売れた。当時はクラウンにも2ドアクーペが存在したほど。その後のセリカもプレリュード、シルビアも同じこと。

 なぜ“ロングノーズ・ショートデッキ”なのかというと、スタイリングコンセプトが前述したように分かりやすい。前輪駆動(FF)のコンパクトカーかワンボックスカーが自動車だと思っていた人たちにとって新鮮で贅沢なクルマに見えるのがFR(フロントエンジン+後輪駆動)のスポーツカーなのだろう。単純な図式を求める中国のお得意様を説得しやすいという事情もある。

 ラグジュアリーでミッドスポーツを凌駕する性能のスポーツクーペが、ステータスの象徴として価値あるクルマと認識する地域に向けて、各メーカーが提案した結果のトレンドか。(編集担当:吉田恒)