厚生労働省はこの12月から、不況時に従業員を解雇せず、一時休業などで対応した企業を支援する雇用調整助成金(雇調金)の支給を厳格化した。安倍政権は「行き過ぎた雇用維持」を改め、「労働力の移動を支援する」政策へと転換を図る。
雇用調整助成金は、景気の変動によって労働者が簡単に解雇されないよう、国が企業に休業手当や賃金の一部を助成し、雇用を守る仕組みだ。ところが2008年のリーマン・ショック以後、解雇や雇い止めに遭う労働者が急増。国は雇用悪化に歯止めをかけようと、支給要件を大幅に緩和してきた。
一方で、実際は働いている従業員を「休業中」などと偽り、不正受給する企業も増加。東京商工リサーチによれば、12年度は全国の約32万事業所に1134億円の雇調金が支給されたが、うち不正受給は約51億円。構成比では4.5%にのぼる。
不正受給を防止するため、厚労省は11年2月から社名を公表し始めた。以来、13年10月までの2年8ヶ月間に公表されたのは全国570社、累計額は107億円に達した。
東京商工リサーチによると、厚労省によって社名が公表された企業のうち、決算数値が判明した381社の売上高は、年商10億円未満の中小零細企業が9割。「他の事業所もやっているから」「どうせ見つからないだろう」と安易な不正を行う例が多い。
業種別では「派遣型の情報通信業」「製造業」「サービス業」が突出している。情報通信業は、システムエンジニアなどを請負先の企業に派遣する業態が多く、実態が見えにくいようだ。製造業では工場ラインを通常稼働させていたのに「休業」や「教育訓練」をしていたと虚偽の申告をする例が目立つ。サービス業では各種コンサルティング業や人材派遣業など、実態が把握しづらい「派遣型」の業種で不正受給が多かった。
今回、雇調金の支給基準が厳格化された背景には、不正受給の増加が関係している可能性もある。来年度の支給総額は現在の約半分、550億円程度まで減ると見込まれる。(編集担当:北条かや)