医薬品業界にとって2014年は、2013年以上にエポックメイキングな年になるかもしれない。4月に大衆薬のネット販売をほぼ全面解禁する改正薬事法「医薬品医療機器法」が施行される予定で、4月1日から税率が5%から8%に引き上げられる消費増税は、医療機関にコストアップへの防衛策として「後発医薬品への切り替え」「院外処方せんへの切り替え」を促進させる可能性がある。どちらにしても後発医薬品メーカーには追い風になる。そして何よりも、2014年は2年に1度の薬価、診療・調剤報酬の改定の年である。
薬価改定で業界が最も気にするのは、長期収載品の薬価引き下げと後発医薬品の取り扱いだろう。長期収載品は2010年4月の「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」の試行開始以来、その市場が加算対象の医薬品、後発医薬品に徐々に置き換わってきたが、2014年の薬価改定によって最終的にとどめを刺されるのではないかと恐れられている。新薬メーカーが中心の日本製薬工業協会は、特許切れ後の薬価大幅引き下げを認める代わりに画期的新薬の特許期間中の薬価維持を求めているが、後発医薬品の薬価次第では、長期収載品ではなくても特許切れになった医薬品は後発医薬品に圧迫されて市場から消えるものが出てくるだろう。
もっとも、健康保険制度のもとでの統制価格である薬価や診療・調剤報酬は「政治力」に大きく左右される。健保財政健全化のために後発医薬品の使用促進を訴え続けてきた政府ではあるが、安倍内閣は先端医療研究の新組織「日本版NIH」設立に動いており、「ノーベル賞級の研究成果が生まれる土壌をつぶしてもいいのか」などと急に言い出して新薬メーカー保護に寝返るかもしれず、薬価改定が最終的にどうなるかは予断を許さない。消費増税についても、今回だけでなく1年半後の2015年10月の8%から10%への引き上げも予定されているので、病院、薬局と医薬品卸との価格交渉で業界サイドに助け船を出すような「激変緩和措置」が講じられるかもしれない。
世界的にみると、欧米も日本も医薬品市場が横ばいかあるいは縮小気味で、ファイザー、メルク、グラクソ、ノバルティス、サノフィ、ロシュなど「メガファーマ」と呼ばれる世界的な医薬品企業は今、リストラの嵐に見舞われている。それを横目に武田薬品<4502>、アステラス製薬<4503>、第一三共<4568>といった「和製メガファーマ」も危機感でいっぱいだ。外資系新薬メーカーが相次いで日本市場に参入する動きに神経をとがらせる一方、海外への進出に積極的に打って出ている。2014年は、国内、海外の創薬ベンチャーの買収も、後発医薬品メーカーの買収も同時に進めるような全方位戦略で難局を乗り切ろうとするだろう。
そのような生き残りをかけたM&Aが国内の中小新薬メーカーを巻き込むだけでなく、たとえば「欧米のメガファーマ、準メガファーマと和製メガファーマの経営統合」というように、国境を超えた業界再編につながる可能性も考えられる。それはヨーロッパではドイツ、フランス、英国、スイスそれぞれの医薬品大手の間で何度も何度も起きてきたこと。2013年12月に武田薬品がグラクソ出身のフランス人、クリストフ・ウェバー氏を初の外国人社長に起用する大胆な人事を発表したのは、そうした流れを想像させるのに十分である。そんなビッグサプライズの予感もはらみながら、医薬品業界の2014年は激動の年になりそうだ。(編集担当:寺尾淳)