医師の10%が、診断や治療ミスなどに関する訴訟を起こされた経験があるという。医師専門のコミュニティサイトを運営するメドピアの調査によると、9割の医師は医療訴訟の経験がないものの、訴えられないのは「運がいいだけ」「いつ巻き込まれるか分からず不安」という声も少なくない。示談で決着したケースも目立つ(有効回答数は3384件)。
医療訴訟の件数は、長期的に見て増加傾向にある。最高裁判所の調べでは、96年に年間575件だったのが、ピーク時の04年には1110件と倍増。12年には793件と落ち着きつつあるものの、患者側が病院だけでなく医師個人も連名で訴える例が増加しており、現場の危機感は強い。
「訴えられて結審まで12年、勝訴しましたが、気持ちは晴れませんでした」、「負けないとわかっていても、心身ともに疲弊します。二度とごめんです」。訴訟を経験した医師からは、リアルなコメントが寄せられた。
日本医師会が運営する「医療安全推進者ネットワーク」によると、医療訴訟の勝訴率は3~4割。金銭の貸し借りや物の売買といった民事訴訟の勝訴率が7~8割程度なので、決して高いとは言えない。99年に横浜市立大病院で起きた「患者取り違え事件」や杏林大病院の「割り箸事件」などの医療訴訟をマスコミが大きく報じるようになったことも増加の一因だ。ネットの普及によって、患者側が様々な情報を入手しやすくなっていることも影響している。
訴訟リスクに備え、若い医師を中心に「医師賠償責任保険」に加入するケースも増えている。加えて医師らが徹底しているのが「記録を残すこと」だ。メドピアの調査では、「ささいなことでもカルテ記載のくせをつける」、「説明した内容もカルテにきっちり記載している」などの声が目立った。入院の際、起こりうるリスクを様々な角度から説明するという医師も多い。インフォームド・コンセントが叫ばれ、訴訟リスクも増大する昨今、『白い巨塔』で描かれたような尊大で権威的な医師の姿は、見られなくなっているようだ。(編集担当:北条かや)