ヤマハ発動機<7272>は2月12日、2013年12月期連結決算を発表した。全ての事業が増収となり、前期の減収減益から大幅な増収増益に一変した業績の急回復で、2013~2015年度の3カ年の営業利益率の目標数値前倒し達成も視野に入ってきた。
■営業利益は約3倍、純利益は約5.8倍に
2013年12月期連結の売上高は16.8%増の1兆4104億円、営業利益は196.5%増(2.96倍)の551億円、経常利益は120.4%増(2.20倍)の600億円、当期純利益は488.3%増(5.88倍)の440億円だった。前期の2012年12月期はその全てが減収減益だったので、業績はまさにV字回復し、3年ぶりの増収、2年ぶりの増益となった。
好業績を受け、昨年8月6日に発表した期末配当予想10円を16円に増額修正した。中間期の10円と合わせると26円で、前期の10円と比べると16円、160%の増配になる。
今年度、2014年12月期通期の連結業績予想は、売上高が前期比6.3%増の1兆5000億円、営業利益が36.0%増の750億円、経常利益が28.1%増の770億円、当期純利益が2.1%増の450億円。年間配当は26円を予想する。なお、通期の想定為替レートはドル円を100円、ユーロ円を135円としている。
■前期の減収から一転、全事業が増収となる急回復
ヤマハ発動機の事業セグメントは「二輪車」「マリン」「特機」「産業用機械・ロボット」「その他」の5つがあるが、2013年度はその全てが増収となった。営業利益も産業用機械・ロボット事業を除く4つのセグメントで増益を果たしている。先進国事業の黒字化など、海外販売の収益性を大きく改善させた。
最大の二輪車事業は16.2%増収で営業損益が黒字化している。販売台数は先進国は新商品投入の効果などで増加したが、新興国はインド、インドネシアで増えてタイ、ベトナムで減るなど国によりバラつきがあり世界全体では609万台から601万台に減少した。しかしモデルミックス改善、円安効果やコスト削減効果で事業は増収増益を果たしている。マリン事業は5事業最大の23.9%の増収で営業利益も約3倍。北米市場の200馬力など高出力船外機が伸びて円安効果も出た。特機事業は22.3%の増収で営業利益は8.8倍。新型ROV(レクリエーショナル・オフハイウェイ・ビークル)の発売、スノーモービル、ゴルフカートの販売増加が大きく貢献した。産業用機械・ロボット事業は4.5%の増収で営業利益は約2割減。その他の事業は自動車用エンジンは減少しても電動アシスト自転車や産業用無人ヘリなどが新商品効果で拡大し、2.0%の増収で営業利益は86%増となった。
■2014年の注目は二輪の「グローバルモデル」
ヤマハ発動機の2014年度の計画は前年度以上に「攻め」の事業戦略がみられる。二輪車事業は世界出荷台数を9.3%増の657万台と想定し、先進国、インド、ブラジルなどでの増加を見込んでいる。先進国で最も期待するのは前年度後半に底打ち傾向がみられたヨーロッパで、出荷台数ベースで22.2%増を予想する。新興国は、スクーターが主力のインドでは都市から地方への浸透を図り、10月にチェンナイに新工場を立ち上げる。インドネシアではスポーツ領域の車種を強化して「グローバルモデル」も投入する。グローバルモデルとは、先進国、新興国共通の世界戦略モデルという初の試み。「ヤマハらしさ」を前面に出した個性的でスポーティーなデザイン、スペックとコストを両立させ、新しい価値を提案し、新しい顧客を開拓する。2014年はまずアジアで生産する二輪「R25」、三輪「TRICITY」の2モデルを世界の市場に投入する。日本では6月に発表される予定になっている。
年間売上高3000億円を目指すマリン事業は、先進国では115馬力など高出力船外機の新商品投入を続け、新興国ではタイで船外機生産を開始し、中国で9月に漁業用小型ボートの製造工場を立ち上げる予定。タイ新工場には10億円程度を投資し、フランスで生産していた2~8馬力の小出力船外機の生産を移管し、年3万台程度の生産能力で始める。特機事業は、ROVやスノーモービルで高性能、高信頼性の商品づくり、ラインナップ拡充を図り、その他の事業は電動アシスト自転車(PAS)で最小、最軽量の新パワーユニットを導入して、顧客層をひろげる。
「研究・開発と成長投資」が、2014年のキーワード。それにより、積極的な新モデルの投入を行って増収を図り、需要に応じた適地生産・流通体制を築く。新興国の総需要の縮小、為替変動といったリスクを吸収できるような、収益力のある強靱な事業体制を構築することを目指している。
■「2017年に売上高2兆円」も不可能でない
ヤマハ発動機は2012年12月に、2013~2015年度の3年間の「新中期経営計画」を発表している。その数値目標は、計画最終年の2015年度(2015年12月期)決算で、連結売上高1兆6000億円、連結営業利益がその5%の800億円を達成するというもの。2012年度実績に対しては売上高で3924億円、営業利益で614億円の上積みが必要だったが、それに対する進捗率は計画初年度の2013年度だけで売上高は51.6%、営業利益は59.4%に達した。2014年度の業績予想の数値で進捗率を計算すると、売上高は74.5%、営業利益では91.8%になる。少なくとも営業利益については、3カ年計画の2年目での前倒し目標達成がすでに視野に入った。
柳弘之社長も「中期経営計画の2年目の今年度は、事業戦略の補強を行いながら計画の前倒しに取り組む」と話している。
ヤマハ発動機は中期経営計画の発表時に2017年度の「目指す姿」もあわせて発表している。その青写真は、全製品販売台数1200万台、連結売上高2兆円、連結営業利益1500億円、連結営業利益率7.5%、ROE15%、ROA5%という数値だが、2013年度の業績急回復ペースを維持すれば、「2017年度に2兆円企業の仲間入りを目指す」という目標の達成も決して不可能とは言えないだろう。(編集担当:寺尾淳)