太陽電池普及の嚆矢となるか 筑波大らが有機材料の変換効率を8倍に

2014年02月16日 17:56

 これまでの太陽電池よりも太陽光を良く吸収し、効率の良い発電ができる太陽電池の材料が開発された。国立大学法人筑波大学の数理物質系 桑原純平講師と神原貴樹教授と独立行政法人物質・材料研究機構(NIMS) 太陽光発電材料ユニット 安田剛主任研究員の研究グループが、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の若手研究グラント事業の支援を受け、開発に成功した。

 太陽電池の材料には、InGaAs、GaAs、CISといった化合物系や有機物系などがある。低コストという点では、有機系材料が最も有望である。高速輪転機印刷が可能である上、軽量のために施工費が安価になるからだ。しかし、他の材料と比べ光電変換効率(照射された太陽光エネルギーから取り出せる電気エネルギーの割合)が良くなく、寿命が短いという課題があった。今回、同グループは、有機材料の高純度な高分子材料を簡単に精製する方法を開発。高純度の達成により、有機薄膜太陽電池の光電変換効率がこれまでの0.5%から4%と8倍も向上したうえ、長寿命化にもつながる。この成果により、高品質な太陽電池材料が低コストに製造可能となる。

 有機薄膜太陽電池の材料の一つであるπ共役系高分子は、これまで主にクロスカップリング反応という手法を用いて合成されてきた。この手法は適応範囲が広く様々な高分子の合成が可能である。しかし、スズやホウ素、リンなどを含む不純物を反応後に高分子から分離する必要があった。

 これに対して同グループは、スズやホウ素、リンなどを用いずにπ共役高分子を合成する手法を開発。不純物の種類や量を低減することを可能にした。これによって簡便な精製操作でも高い純度の高分子を得ることができた。この高純度高分子を有機薄膜太陽電池の材料に用いることで、高い変換効率と長寿命化が達成できることを明らかにした。

 開発した新合成法では30分の反応時間で分子量14万以上の高分子が得られることから、反応時間の短縮および分子量向上の観点においても優位性があるという。新技術で太陽電池用材料を試作ところ4%の光電変換効率が得られた。また、高純度材料を用いることで長寿命化することも確認できた。

 太陽電池は、新エネルギーの中でも最も有望視されており、すでに空港や工場、公共施設などには導入が進んでいる。しかし、導入コストがかかるため、一般家庭にはなかなか普及しない。有機薄膜太陽電池は、軽量、フレキシブル、低コストという特長を有しているため注目されている。しかし、すでに実用化されている無機の太陽電池と比較すると、変換効率や寿命の観点でなかなか実用化が進まない。今回の新技術は、変換効率や寿命が改善されただけでなく、大量生産にも適した合成手法であるという。太陽電池普及の嚆矢になるかもしれない。(編集担当・慶尾六郎)