ウイスキーという言葉は古代ゲール語の「生命の水」を意味する“ウシュク・ベーハー=Uisuge Beatha”を語源とするケルト語の「ウスケボー」に由来するといわれている。
蒸溜酒のひとつであるウイスキーはアイルランドやスコットランドのケルト文化圏で発生し、16世紀後半になるとスコットランドでお酒として飲まれるようになった。
スコットランドのモルトウイスキー蒸溜所は18世紀末の最盛期には250以上が稼働していたといわれる。しかし、その数は急速に減り続け、1980年代には100あまりまで減った。理由は大手ブレンデッドウイスキー・メーカーにブレンド用として細々とモルトウイスキーを供給していた家族経営に等しい資金力が乏しい中小規模の蒸溜所が淘汰されたためだ。
このあたりは、日本の大手清酒メーカーの下請けのような中小酒造蔵の減少とそっくりだ。
ところが、英国スコットランドでは1990年代後半から、新しい蒸溜所が生まれつつある。アラン島で1995年に「アラン蒸溜所」が稼働開始。2005年にアイラ島に「キルホーマン蒸溜所」が誕生した。シングルモルト蒸溜所の誕生・再生である。
現在、アイラ島でまた新しい蒸溜所の建築計画が進んでいる。建設予定地はボウモア蒸溜所がある町から南西に3キロメートルほど離れた湾岸に位置するガートブレック(Gartbreck)農場。蒸溜所の名も「ガートブレック蒸溜所」になる予定だという。
規模は現在アイラ島で最小の蒸溜所「キルホーマン」よりも小さな小さな蒸溜所になる。英国から届いた情報では、当初、「生産するボリュームは非常に小さく、蒸溜所のビジターセンターでローカルに売られることを想定したレベルでしょう」という。
計画を進めているのは、仏ブルターニュに本拠を置くケルティック・ウィスキー社のオーナーでもあるジャン・ドネイ氏。「ガートブレック蒸溜所」の建設は、2014年5月に着工、2015年秋に蒸溜を開始する予定で、海に面したお洒落なビジターセンターも設置する予定だ。年間生産量は6万リットルを見込んでいるという。すでに計画は「Gartbreck plans」HPで公開されている。
この蒸溜所では、すべての仕込みをピーテッド麦芽で行ない、一部はフロアモルティングを実施するという。
ポットスチルは初溜・再溜の2基。興味深いのは、ポットスチルによる蒸溜加熱をスチームコイル式ではなく直火焚きを採用する伝統的なつくり方にこだわっていることだ。現在、アイラ島の蒸溜所で直火焚きをしているところは現在はない。スコッチモルト蒸溜所すべてをみても数カ所だけだ。伝統的な直火焚きは、スチームコイル式に比べコストがかかる上に温度調節が難しいためだ。しかも、ポットスチルの寿命が短いという。ちなみに、日本の蒸溜所で直火炊きを採用しているのは、ニッカウヰスキーの余市蒸溜所だけだ。
熟成にはメインにバーボン樽を使用。バッティング用だと思われるが、少量のシェリー樽にも詰める予定だという。
新しい「ガートブレック蒸溜所」が創業すれば、アイラで9つの蒸留所が稼働することとなる。元カリラ蒸溜所のマネージャーだった人物がガートブレックの所長に就くという噂が流れたが、これは完全に否定された。
発表によれば、最初にガートブレック・シングルモルトが味わえるのは2018年。どんなシングルモルトが生まれ、新しいアイラモルトがどんな味わいなのか、今から楽しみだ。(編集担当:吉田恒)