高い経済成長を遂げる国が相次ぐアフリカの市場が、世界から大きな注目を集めている。
日本主導の下で5年ごとに開催されている「アフリカ開発会議(TICAD)」が、2013年6月に横浜で開催されたが、これまで「支援・援助」が中心だった議題から、アフリカ経済にどのように関わっていくべきかという内容へと、大きな変化がみられるという。キャッチフレーズも「アフリカ、ともに成長するパートナーへ」となっており、もはや援助相手ではなくなっていることが見て取れる。
現在も最貧国から抜け出せない国がある一方で、ナイジェリアなどの石油産出国を抱えるサハラ砂漠以南のアフリカ諸国の経済成長率は10年間で年平均5.8パーセントにも達しており、豊富な資源を背景に急速かつ確実に経済成長を遂げている。さらに2050年には人口が、現在の10億人から20億人にまで増加すると見込まれていることもあり、少子高齢化の進む先進諸国にかわる巨大市場としての期待に拍車がかかっている。そんなアフリカ市場にいち早く進出したのが中国で、今では中国がアフリカ諸国最大の貿易相手国となっている。
もちろん、日本もただ手をこまねいているわけではない。日本政府もアフリカ市場には大きな関心を寄せており、今年1月、アフリカ連合(AU)の本部アディスアベバで『「一人、ひとり」を強くする日本のアフリカ外交』と題してスピーチを行った安倍晋三首相は「日本企業がアフリカにやってくるとき、経営の思想を必ず一緒に持ってくる」と、日本企業の進出には大きな付加価値が伴うことを強くアピールしている。そして、その際に例に挙げられたのが、1960年代からアフリカでビジネス展開を行っているヤマハ発動機<7272>だ。
安倍首相は、同社がモーリタニアで船外機を販売した際、漁師に対して各種漁法や鮮度の保ち方、加工方法などを紹介したことや、モーリタニア人を日本に送って造船技術を習得させたり、造船工場の建設を手伝ったりしたことなどを挙げ、日本企業のビジネスの手法を紹介している。
当然、ヤマハ側もボランティアが目的ではない。それらの取り組みが漁業者の所得を向上させることで、将来的に企業の収益に繋げる戦略だ。船のエンジンである船外機を売ってモーリタニアの小さな漁村を動力化すれば、それに伴って漁業従事者の収入が増える。すると、陸の上にも水産加工や販売といった産業が生まれる。同社ではこうしたビジネスのあり方を「社会的価値創造ビジネス」と呼び、漁業だけに留まらず、農業の分野でも同社製のポンプを使った点滴灌漑という水撒き方法の指導を行うなどの取り組みも行っており、収穫の安定化や増加はもとより、水運びという重労働から女性や子どもたちを開放している。
今、アフリカだけでなく世界の国々で、中国や韓国などの企業の進出が目覚しいが、こういった姿勢は日本独特のものではないだろうか。そして、そういった将来に向けた戦略的な取り組みが、今日の日本企業や日本製品への信頼を積み上げてきたのだ。どんなに豊潤な土地でも、刈り取るだけではすぐに枯れ果てて荒野になってしまう。市場を育み、その土地との共存関係を築き上げていくことが、日本ブランド最大の強みであり、原動力となるのだ。(編集担当:藤原伊織)