雌の性成熟や発情を引き起こすフェロモンを同定 家畜コントロールや生殖障害の治療薬開発に期待

2014年03月26日 07:50

 東京大学大学院農学生命科学研究科の武内ゆかり准教授らの研究グループはこのほど、哺乳類の雌の発情などにからむフェロモンを初めて同定した。哺乳類の攻撃性や性行動に関するフェロモンの中でも、性成熟を早めたり発情をうながす効果を持つフェロモンの同定は初めてのこと。研究成果はフェロモンによる家畜の繁殖コントロールや、広くは人を含めた哺乳類全体の生殖機能障害の新たな治療方法開発にもつながることが期待される。

 東京大学大学院農学生命科学研究科の渡邉秀典教授、森裕司教授、武内ゆかり准教授、村田健氏、農業生物資源研究所の岡村裕昭氏らのグループが明らかにした。

 フェロモンは、「ある個体が放出し、同種の他個体が受容したときに特定の行動や生理的変化を誘起する物質」で、嗅覚を介した同種間のコミュニケーションに重要な役割を果たすことが知られている。哺乳類では、攻撃行動や性行動などを誘起する「行動を制御するフェロモン」は数種類が同定されており、その作用機構も徐々に明らかにされてきたが、雌の性成熟を早めたり発情を誘起するなどの効果をもつ「内分泌系を制御するフェロモン」に関してはいまだに確実な分子同定が行われておらず、作用機構についてもほとんど不明だった。

 今回研究グループは、季節性繁殖動物のヤギやヒツジにおける“雄効果”と呼ばれる強力な性腺刺激現象に着目。生殖制御中枢に促進的に作用するフェロモンとして、4-ethyloctanal(よん エチルオクタナール)という新奇の揮発性化合物を同定した。この化合物は、雄ヤギの頭部より放出される多くの物質の中から、雌ヤギにおける脳の生殖制御中枢の活動をリアルタイムで観測できる、研究グループが新たに開発した評価手法であるバイオアッセイを用いて同定した。

 雌における生殖制御中枢活動の促進を明瞭に示すフェロモンの同定は、哺乳類では今回の研究成果が初めのことだ。研究グループは、今後は研究成果を発展させてウシやブタなど、日本国内では雌雄を別々に飼育せざるをえない管理上の制約が繁殖障害の一因となっている主要な家畜種を対象とした研究にも取り組み、それぞれの雄効果フェロモンを同定してその実用化を目指していく予定だという。

 こうした研究は、家畜の繁殖制御のみならず、ヒトを含めた哺乳類全体の生殖機能障害の新たな治療方法の開発にもつながることが期待されるもので、今後の研究成果に期待が持たれるだろう。(編集担当:横井楓)