アメリカ自動車業界に再び活気が戻ってきている。かつての金融危機以来、凍えるような空気が漂っていた同業界だが、去年は新車販売台数1500万台を回復。今年は更にそれを上回る勢いで数字を伸ばしているようだ。この好調の原因はもちろん米国経済の力強さを背景にしたものだが、同時に一つの問題点も浮かび上がってきた。新車購入時に利用される自動車ローンのうち、サブプライムローンの割合が上昇してきているのだ。
2008年9月、アメリカ大手投資銀行リーマン・ブラザーズが突如として破綻した。そのショックは複数の大手金融機関を経営難に陥らせながら瞬く間に欧州、アジアへと波及し、世界は長い不況へと突入したのである。なぜリーマンショックは起きたのか。それにはいくつかの要因が複雑に絡み合っているとされているが、中でも住宅市場におけるサブプライムローンに重大な問題があったとの声は大きい。
サブプライムローンとは、与信力の比較的低い人に対するローンのことで、給与水準が高かったり、クレジットヒストリーが一定水準以上にある人に対するプライムローンと比べると、金利が高く、また返済が滞る可能性も高い。もちろんサブプライムローンというカテゴリが存在すること自体は問題ない。問題だったのはその扱い方である。
金融危機以前の米国は空前の住宅ブームに沸いていた。「不動産は必ず値上がりする」誰もがこの言葉を信じ、金融機関は借り手の与信力と担保となる不動産の価値を異常に高く見積もり続けたのだ。また、米国の投資銀行はこのサブプライムローンを証券化し、更に複数のサブプライムローンを組み合わせて売買可能にするなど、極めて複雑な金融商品を生み出してしまった。そのため、この金融商品に対していつの間にか誰も正しい価値を算定することが不可能になってしまっていたのだ。上がり続けると信じられていた不動産価格と、与信力の甘い算定、計算不能な金融商品の登場という三つの要素が絡み合うことによって住宅市場を発端とする金融危機は起こったのである。
現在、自動車ローンに占めるサブプライムの割合は約4割弱と見られており、今後もこの数字は増加しそうだ。たしかに自動車産業は住宅市場と比較するとその規模は小さい。そのため、かつてのような大問題には発展しないだろうという見方が大勢だ。しかし、何らかの形で借り手の与信力や担保能力が過大に評価されているのであればシステム的には同じようにバブルが発生し、再び危機の原因となる可能性は誰にも否定できない。米自動車産業、その好景気が金融工学によって生み出された砂上の楼閣でないことを祈りたい。(編集担当:久保田雄城)