自動車のカタログ燃費と実用燃費に大きな差が生まれる理由は?

2014年05月03日 14:32

35.0km

自動車のカタログ燃費競争はますます苛烈になるのか?

 「ガソリン車世界No.1燃費、35.0km/リッターを達成」という広告コピーは、昨年の第43回東京モーターショーで「スズキ・アルト エコ」のブースに掲げられたものだ。こうしたアピールあるいはPRの増加は、ガソリン価格の高騰もひとつの理由だが、経産省が主導して2009年からスタートした、重量税と自動車税を免除もしくは減額するエコカー減税の影響が大きい。

 実際、消費者はカタログ燃費値など信じておらず、燃費がいいクルマを購入するのではなく、エコカー減税対応車かどうかに注目している。「35.0km/リッター」とカタログに記載されていて、それに遠く及ばない20.0km未満の実用燃費であっても、クレームを付けたという話はあまり聞かない。

 1970年代前半ぐらいから、自動車のカタログに燃費性能は記載されていたが、当時は燃費よりも「0-400m加速」とか「0-100km/h加速」のようなクルマの性能そのものをアピールする記載が多かった。その性能がほんとうなのか検証する役割を担っていたのが自動車専門誌といわれる一部の雑誌だった。

 とは言え、雑誌社もすべてのクルマを購入してテストするわけではなく、自動車メーカー主催の“プレス向け試乗会”や、メーカーが用意する“広報車”と言われるテストカーを借りて取材する。一時期、業界では“広報チューン”という言葉がまことしやかに流れ、「広報車には特別なチューニングが行なわれ高性能化されている」とも言われていた。チューニングはともかく、正確で丁寧な整備は行なわれているのは間違いない。

 話が逸れた。現在、カタログ燃費はJC08モード燃費(2011年以降)という測定値で表す。以前は10・15モード燃費だった。新基準のJC08モードは、実際の走行に近い「加速・減速・信号待ちなど一定時間の停止」などが細かく規定され、その走行パターンで走らせたときの燃費を測定する。また、暖気が済んでいないエンジンが冷えた状態からスタートするテストも加わる。

 実際の燃費計測は各社の条件を均一にするため環境が一定な屋内に設置したシャシーダイナモという装置のローラーの上を走らせる。しかも、運転するのは各自動車メーカーの測定運転を専門とする精鋭ドライバーだ。

 このシャシーダイナモ上のテストで、実走行と大きく違う点がいくつかある。まずハンドルは常に直進状態、決してクルマは曲がらない。こんなことは現実にあり得ない。また、坂道もない。風も吹かないし雨も降らない。渋滞もなければ、時速100km以上の高速走行もない。

 また、テストでは走行パターンが完全に決まっているので、停止するまえにアクセルを抜いて惰性で走るようなテクニックも使える。加えて、計測テストではエアコンやオーディオなどの電装品はすべてOFF。最近のクルマには電動パワーステアリングが備わる。昔ならエンジンの力で油圧ポンプを動かしていたので燃費に影響した。が、電動パワーステはハンドルを切るときだけ電力が必要になる。先に述べた「決して曲がらないテスト」なので電気は食わない。つまりエネルギーロスが無いと言うことだ。

 燃費計測テストと実走行の大きな違いは理解いただけただろうか。年度ごとの国内自動車保有台数とカタログ燃費、その年度の走行距離(車検毎にチェック)、燃料消費量を計算した日本自動車工業会の資料によれば、実用燃費はカタログ燃費値のおよそ70%だという。だから冒頭の35.0km/リッターのアルトはリッターあたり24kmも走れば上々といえるのだ。

 さらに言うなら、燃費を悪くする原因はドライバーの腕にある。いくら好燃費だと言われるハイブリッド車でも、発進加速でアクセルを床まで踏むような運転をしたら燃費悪化は避けられない。また、プリウスなどで見かける極端なタイヤのインチアップも省燃費に反するモデファイといえる。

 燃費をカタログ値に近づけることの難しさ、ご理解いただけただろうか。(編集担当:吉田恒)