北朝鮮における薬物汚染といえばこれまで覚せい剤(メタンフェタミン)が主流であった。覚せい剤はそもそも外貨獲得のための国策として製造が始められ、20世紀後半には洋上からの大量密輸が日本に対しても行われていた。ニュースなどに度々取り上げられていたことを記憶している人も多いだろう。
その後、日本や同じく大量密輸先であった中国の取締りの強化、それに伴った密輸ルートの摘発によって大規模な製造は行われなくなった。しかし行き場を失った覚せい剤は北朝鮮国内に急速に広がり、過酷な労働による肉体的疲労や、食料不足による飢えを紛らわすためにその乱用が蔓延しているのだ。
そして、ここ最近になって覚せい剤だけではなくアミドンと呼ばれる合成麻薬が北朝鮮内で広がりを見せていることが明らかになってきた。アミドンは第二次世界大戦中にドイツで開発された鎮痛剤だ。モルヒネなどの代替薬として現在も世界中で使用されている。麻薬成分の純度が90%と大変高く、その効用も強い。もちろんその分中毒性も高いため、中には家財道具を全て売り払ってでもアミドンを購入しようとする者までいるようだ。
アミドンはケシの実から製造される。北朝鮮は過去、アヘンの売買が盛んだった過去を持つ。アヘンも同じようにケシの実から抽出されるため、アミドンもその流通ルートが利用されていると見られる。また、これまで北朝鮮政府が管理していた娯楽目的の薬物の製造・販売所が、現在では民間人によって運営されており、廃墟化した工場跡地等がアミドンの生産拠点となっているようだ。
アミドンの過剰摂取はアメリカでも年間約5,000人の死者を出し、問題となっている。これはコカインによる死亡者数よりも高い値だ。社会的・文化的背景が異なる北朝鮮ではその拡がるスピードは、とてつもないものだろう。
鎮痛剤であるアミドンは、覚せい剤とはその作用が異なる。今後、アミドンと覚せい剤の両方が同時に蔓延することが危惧されている。北朝鮮国民は過酷な日常から逃げ出すために苦しみ、もがいている。しかし、これらの薬物によってその身が本当に救われる日は、永遠に訪れないはしないのだ。(編集担当:久保田雄城)