前週末9日のNYダウは32ドル高で4月30日以来の終値ベースの史上最高値更新。NASDAQ総合指数は20ポイント高で高値引け。しかし実態は、11日が住民投票のウクライナでは火薬の匂いやまず、金融株は軟調で、週末でもありプラスとマイナスを行ったり来たりの「方向感に乏しい展開」で高揚感はなかった。それでもGAPの好決算、アップルによる音響機器メーカーの買収話などの材料があり、グーグルなどIT関連、バイオ関連のモメンタム銘柄の多くは反発した。12日朝方の為替レートはドル円が101円台後半、ユーロ円が140円台前半。ウクライナ東部2州の住民投票で「自立」支持が89.7%の多数を占めたという報道が流れるなどしてユーロが安くなっていた。
9日のシカゴCME先物清算値は14175円。取引時間前に財務省から3月の国際収支が発表され、貿易収支が1兆1336億円の赤字で前年同月比で1兆円を超える赤字大幅拡大、経常収支が1164億円の黒字で前年同月比で1兆円を超える黒字大幅縮小。どちらも市場予測よりも悪化した。2013年度トータルでは貿易収支は10兆8642億円の赤字。経常収支は7899億円の黒字で過去最少だった。外資系証券の売買注文動向は売り越し。日経平均は26.10円安の14173.49円とCME清算値にさや寄せして始まる。午前9時13分に14163円まで下げた後、9時20分すぎTOPIXを伴ってプラスに浮上。9時31分の14234円までぐんぐん上昇した。その要因は国際収支が材料の円安進行で、9時台のうちにドル円は102円にタッチした。9時台後半はおおむね14220~14240円のレンジでもみあい、10時台もしばらくプラス圏を保ったが、円安の動きが止まると中国市場がプラスで始まってもTOPIXを道連れに10時30分頃からアッと言う間に下げてマイナスに転落。10時56分に14157円で底を打った。前場はプラスに浮上できず、前引は14178円だった。
後場も前場と同水準で14180円前後の値動きが続くが、午後1時を回るとしびれを切らしたように売りが出て、1時22分に14130円まで下落する。その後、日経平均は14160円近辺でくすぶっていたが、元気が出る注射が打たれたのが2時。内閣府が4月の景気ウォッチャー調査の結果を発表し、現状判断指数は3月より16.3ポイント低い41.6だったが、2~3ヵ月後を予測する先行判断指数は3月より15.6ポイントも高い50.3と、5ヵ月ぶりに上昇し50をオーバーした。6~7月頃には消費増税後の駆け込み需要の反動減を克服できるという「街角の判断」で、「改善しても40台」という市場予測が多かったのでポジティブサプライズ。日経平均はTOPIXをマイナスに置いたまま2時8分にプラスに浮上した。ところが効き目はたった20分しか持続せず、日経平均は再びマイナスに舞い戻ってしまう。「この結果を見たら日銀が追加緩和を先送りしてしまう」という思惑も浮上してマーケットは素直になれない。ウクライナ情勢を欧米市場が織り込むのを待ちたいという様子見に加え、4月の企業倒産件数が18ヵ月ぶりに増加というニュースも入った。終盤は大引けまで下落の一途で、終値は50.07円安の14149.52円で3日ぶりに反落した。日中値幅は104円で意外に小さい。TOPIXは-7.60の1157.91で安値引け。売買高は18億株。売買代金は1兆6076億円だった。
東証1部の値上がり銘柄は382、値下がり銘柄は全体の約73%を占める1327。33業種別騰落率は4業種が上昇、29業種が下落で、上昇セクターは精密機器、食料品、水産・農林、鉄鋼。下落セクターで値下がり幅が小さい業種は保険、金属製品など。大きい業種はゴム製品、鉱業、非鉄金属、パルプ・紙、石油・石炭、ガラス・土石などだった。
日経平均採用225種の値上がりは65銘柄、値下がりは150銘柄。プラス寄与度1位はオリンパス<7733>で+5円、2位はファーストリテイリング<9983>で+4円。マイナス寄与度1位はソフトバンク<9984>で-13円、2位はブリヂストン<5108>で-6円。
メガバンクは、みずほ<8411>は2円安だったが三菱UFJ<8306>は2円高、三井住友FG<8316>は15円高。野村HD<8604>は5円安だった。9日に今期業績見通しが市場予測を下回っても株価が上昇したトヨタ<7203>だったが、この日はあっさり売られ47円安。今期国内生産100万台割れの見通しの日産<7201>は2円安、富士重工<7270>は46円安で年初来安値更新、ホンダ<7267>は26円安、マツダ<7261>は9円安と為替が円安に動いても自動車大手は不振。自動車部品のデンソー<6902>も131円安で年初来安値を更新した。その中で、今期も2期連続営業最高益と決算内容が良く自社株買いも発表したスズキ<7269>の54円高の健闘が光る。決算内容で買われたのがベアリングのミネベア<6479>と日本精工<6471>で、ミネベアは今期営業利益が13%増の365億円で、市場予測の380億円を上回って66円高。野村證券が目標株価を引き上げた。日本精工は今期営業利益見通しが10.2%増の750億円で市場予測の732億円を上回り101円高で値上がり率5位。4円増配予想も好感された。
電機大手も日立<6501>5円安、東芝<6502>5円安、NEC<6701>1円安などふるわなかった。オリンパスは今期の業績見通しで売上高が増収に転換し、営業利益が19.8%増の1060億円という内容がサプライズでJPモルガンが目標株価を引き上げて145円高。一方、コニカミノルタ<4902>は今期営業利益見通しが6.6%増の620億円で市場予測の708億円に及ばず104円安で年初来安値を更新し値下がり率12位。45円安のファナック<6954>は7営業日続落と深刻。昭和世代は「クラリオンガール」を思い出すカーオーディオ、カーナビのクラリオン<6796>は売買高10位と買われ19円高で年初来高値を更新し値上がり率4位。3月期の経常利益33.5%増で、今期は41.9%増と増益幅が拡大するのを好感されていた。
3月期の最終損益が2427億円の黒字で市場予測の2320億円を上回る決算を発表した新日鐵住金<5401>は売買高5位に入り3円高。住友金属鉱山<5713>は今期の営業利益見通しが23%増の930億円で、市場予測の854億円を上回り42円高で年初来高値更新。シティGが目標株価を引き上げた。三越伊勢丹HD<3099>は1時に決算を発表し、今期見通しが売上高1.6%減、営業利益1%増、経常利益16%減、当期純利益5.5%減とあまりにも弱気なために急落して14円安で終えた。博報堂DYHD<2433>はシティGが目標株価を引き上げて72円高で値上がり率7位に入った。西武HD<9024>は88円高で2日連続で上場来高値を更新。富岡製糸場関連銘柄としても買われている。
この日、上値を追えないのは日経平均も個別株も同様だった。前週は株価上昇の決め手になった自社株買いも科研製薬<4521>やアステラス製薬<4503>がザラ場中に実施を発表したが、急騰の数分後には上値を抑えられて急落し、チャートが「東京スカイツリー型」になる始末。科研製薬は年初来高値をつけながら14円安、今期増収増益見通しのアステラス製薬も13円安で終えていた。
DeNA<2432>は売買高9位、売買代金2位と売り浴びせられ、333円安で年初来安値を更新して値下がり率2位になりボロボロ。今期営業利益見通しが61%減の65億円で、市場予測の466億円と比べケタ違いに悪くては致し方なし。メリルリンチとJPモルガンによる投資判断引き下げも泣きっ面にハチだった。後場に決算を発表したスクエニHD<9684>は、3月期は125億円の経常利益が今期40%減の75億円になる見通しで、190円安で年初来安値を更新し値下がり率11位。この日の新興市場は全面安になり、東証マザーズ指数、日経ジャスダック平均は後場ズルズル下落して年初来安値を更新していた。
午前、2016年のNHK大河ドラマは真田幸村が主人公の「真田丸」と発表された。舞台は長野県上田市、和歌山県九度山町、大阪市。長野新幹線に上田駅があるJR東日本<9020>はNHKの発表に反応してマイナスから浮上し21円高。高野線が九度山町を通る南海電気鉄道<9044>も反応したが終値は2円安。上田市の観光客増加で潤いそうな上田交通は東急<9005>系だが東急は特に反応なく1円安。上田市が本社の上場企業は3社あり、ホンダ系でブレーキなどを製造する日信工業<7230>は20円安、電気計測器の日置電機<6866>は8円安、建機・建具レンタルのシーティーエス<4345>は40円安で、大河ドラマ効果はみられなかった。
この日の主役は9日に1~3月期決算を発表したタイヤメーカー2社。東洋ゴム工業<5105>は営業利益が87%増で、上半期(1~6月期)の営業利益見通しを180億円から230億円に大幅上方修正したのを好感され、88円高で年初来高値を更新し値上がり率2位に入った。一方、ブリヂストンは営業利益は56.3%増と好調だったが市場予測を下回り、通期業績見通しの営業利益を4600億円に据え置くと、これも市場予測の4897億円を下回るため164円安で4.43%下落と売り込まれた。信用取引を使った同業種のペアトレード「ブリヂストン売り、東洋ゴム買い」も盛んに行われていたようだった。(編集担当:寺尾淳)