植物工場とは、人工太陽や温度調節などで徹底管理を行いながら、工場の中で野菜や果物を栽培するという、新しい農業だ。
従来のハウス栽培と異なるのは、植物が育つ環境を完全制御することができる、閉鎖的空間を作り出したことにある。そのため、害虫の被害を少なくし、無農薬栽培が容易となった。また、季節や場所の影響を受けることがないので、災害や異常気象に悩まされることなく一定数の収穫を見込めることも利点だ。農地面積を十分に確保できない都市でも、地下や、ビルの中に植物工場を備えることもでき、レストランなどでは小型の植物工場を併設し、採れたてのサラダを提供しているところもある。
農林水産省と経済産業省は、2008年に「農商工連携植物工場ワーキンググループ」を共同で立ち上げた。100億円以上を越す予算が組まれ、それをきっかけに、様々な企業が植物工場に参入し、開発に拍車がかかっている。
パナソニック<6752>は3月から福島県で植物工場を稼働させ、5月には東芝<6502>が神奈川県横須賀市に自社の植物工場を立ち上げた。日立製作所<6501>、シャープ<6753>、富士通<6702>も、植物工場を関連とした事業へ意欲的に乗り出している。6月には千葉県柏市の「柏の葉スマートシティ」で、国内最大規模の完全人工光型植物工場が完成した。事業主は三井不動産<8801>で、植物工場の研究開発を行う「みらい」(東京都千代田区)との二人三脚で運営する。
植物工場の先駆けとして知られているのはオランダだ。国土面積は九州に相当するが農地の狭さを、生産効率を上げることによって補い、農産物の輸出額は1位のアメリカに次いで世界2位を誇る。コンピュータを駆使しながらの徹底したデータ管理のもと、最先端の植物工場を実現している。
農林水産省が発表したデータによると、オランダの食料自給率は08年で77%、09年で65%となっており、1961年から近年までずっと70%前後の高い数値のまま推移している。一方日本の食料自給率は、1961年にはオランダを越えて78%だったのが、71年には58%に減少、91年には46%と下降の一途をたどり、09年の40%以降は13年まで39%という状態が続いている。政府は20年までに食料自給率を50%まで回復させることを目標に据えているが、オランダの成功が日本にヒントをもたらすことはあるのだろうか。(編集担当:久保田雄城)