1月にスタートした少額投資非課税制度(NISA)を通じた個人投資家による株式などの購入額が3月末時点で1兆34億円に達した。総口座数は約650万で1月の制度開始時から37%増えた。口座数も60歳以上が60%を占めた。ただ、50歳代以下の現役層も急増しており、全体に占める割合は40%と1月と比べ4ポイント上昇した。NISAを通じた投資が1から3月期と同ペースで続いた場合、2014年年間では4兆円が投信や株式市場に流れ込む。英国の個人貯蓄口座(ISA)の初年度の投資額160億ポンド(約2兆7600億円)を上回る見通しだ。これは金融庁が686の銀行や証券会社などを調査し、まとめたものだ。この数字を見る限り鳴り物入りで始まったこの制度は一定の成果を収めているように見える。さらに日本経済新聞は「NISAを機に個人マネーは貯蓄から投資に動きつつある。」と評価している。
その一方で問題点もある。日本証券業協会による調査では口座開設した投資家を世代別にみると、退職世代にあたる60歳代以上が全体の約61%を占めている。中高年が中心で20歳代は約3%、30歳代は約8%と、年齢が若くなるにつれてNISA利用には慎重だ。また、NISA口座のうち、投資未経験者の割合は11%であり、取引実績のあるNISA口座の比率は約23%にとどまっている。
この数字をどう解釈すべきだろう。NISAを利用しているのはこれまでから投資経験のある高齢の富裕層に限られており投資家の層が広がっているとは決して言えない。本来であればこれから資産形成を行う若者がこの制度を積極的に利用すべきであるにもかかわらず、その世代には浸透していない。さらに口座は開設したものの、実際には利用されていないカラ口座が全体の77%を占めているのだ。
NISAは英国のISAをもとに創設されたが、その趣旨や制度の内容には大きな違いがある。英国では低い貯蓄率を解消するために創設された制度であり、預金や保険にも適用されるのだ。そのため口座の利用率も50%を超え、23%にとどまる日本のそれとは比較にならない。それらを同列に論じることは議論を誤った方向へと導きかねない。そして、NISAをよりよいものへと改善していくためには、楽観的な期待ではなく問題点に真摯(しんし)に向き合っていく必要がある。(編集担当:久保田雄城)