2014年4月の薬価改定は 2.65%の引き下げと2000 年以降の改定で最も低い率となった。これは、消費税増税とともに、①新薬創出加算品目の存在や②ジェネリック医薬品(後発医薬品)の品目増加、③長期収載品(後発医薬品のある先発品)のシェアの大幅な減少、④医薬品卸との納入価交渉のあり方の見直しの進展、⑤市場拡大再算定などの影響が挙げられる。これを受け、株式会社矢野経済研究では国内製薬市場の調査を実施した。
調査期間は2013年4月~2014年4月。調査対象は製薬企業、医薬品卸、医療機関、薬局、行政当局、学識経験者などで、調査方法は同社専門研究員による直接面談、ならびに文献調査を併用した。その結果、2021年の医療用医薬品生産高は12兆7707億円になると予測した。
同社は、新薬創出・適応外薬解消等促進加算制度(新薬創出加算制度)の継続に関して不安定要因があるものの、それ以外の傾向については今後も大きく変化することがないものと考えているという。そのため、今後の薬価改定率も、今回のような低い改定率になると予測した。ただし、新薬創出加算制度は、このままでは「試行的」から永久に脱却できない恐れも出てきているという。製薬業界が、制度の「恒久化」を求めて強引なやり方をしようとするのであれば、制度そのものが無くなる、あるいは大幅に後退した制度になる可能性もありうると考えるとしている。
今回、市場拡大再算定が適用された DPP-4 阻害薬などにおいて、上位に位置する製薬企業は一定のシェアを確保していることなどから、薬価を引き下げられても今後も売上の伸びが期待できる。だが、後発で上市した新薬を持ち、思うようにシェアを拡大できないでいる製薬企業は、初期の売上計画達成のための条件がますます厳しくなるとみている。
ケースⅠでは、医療制度改革が医薬品需要に多大な影響を及ぼし、ジェネリック医薬品(後発医薬品)の数量ベースシェアが 2018 年頃までに 60%に達し、市場は新薬かジェネリック医薬品かという構造を持つことを想定して算出した。その結果、医療用医薬品生産高(輸入品を含む)は2014年が9兆5421億円、2017年が 10兆1061億円、2021年には 10兆6172億円になると予測した。
一方、ケースⅡでは、医薬品需要の底固さと、結果的に穏やかに推移する医療制度改革を加味し、抗がん剤や糖尿病治療薬など高齢者社会において多くの患者が必要とする医薬品が順調に売上を伸ばすとともに、新薬創出加算制度が一定程度寄与し市場を下支えするとして算出した。その結果、医療用医薬品生産高(輸入品を含む)は2014年が10兆918億円、2017年が11兆2407億円、2021年が12兆7707億円になると予測した。
わが国や海外の製薬企業や創薬ベンチャー企業における抗がん剤の研究開発状況を見ると、分子標的薬の開発が急増し、「開発ラッシュ」のような状況となっている。一方で、分子標的薬は高薬価となることから、長期間の投与ということになれば、政府も患者も医療費の増大に頭を悩ますことになる。このまま、特定の患者にしか有効性を示すことができない恐れがある分子標的薬を高薬価で保険適用するということは、将来的に「費用対効果」に大きなズレを生じさせることになりかねないと分析している。(編集担当:慶尾六郎)