燃料電池車「FCV」の購入補助金は300万円か? FCVが売れれば、あの業界にも利益をもたらす

2014年08月16日 13:33

Toyota_FCV

トヨタが年内に発売に踏み切る燃料電池自動車「FCV」、政府はFCV購入時に1台あたり200-300万円の補助金を出すことを検討している。

 トヨタが6月に本年中に発売すると発表した製燃料電池車(FCV/Fuel Cell Vehicle)だが、ホンダも2015年中に市販を目指し、日産も追随する構えだ。この水素の化学反応を使ったクルマであるFCVは、自動車業界だけではなく、さまざまな産業に影響を与えそうだ。

 トヨタが年内に販売を開始スタートさせるFCVの販売ディーラーはトヨタ店とトヨペット店で、当面「水素ステーション」の整備が予定されている地域の販売店が中心となる。

 具体的には、一般社団法人「次世代自動車振興センター」の燃料電池自動車用水素供給設備設置補助事業における、2013年度と2014年度1次/2次公募で交付決定している自治体だ。

 これを受けて7月14日に岩谷産業が、国内では初めてFCV向けの商用水素供給施設「水素ステーション」を兵庫県・尼崎の同社中央研究所敷地内に開設した。同社によると水素ステーションは、ふつうのガソリンスタンドの建設費約1億円に対して4億6000万円ほどになる。液体水素を気体にして高圧でFCVに供給する圧縮装置だけで1億4000万円もの費用がかかるからだ。そのため圧縮装置の無いポンプの開発が急務。岩谷産業では、ドイツのガス大手「リンデ社」が開発した充填パッケージをモデルに、自社開発・製造を急いでいる。

 ただ、政府の見込みでは2015年に設置される水素ステーションは、国内100カ所にとどまる見通しだ。そのため水素配管やタンクの材質、立地などの規制緩和を進める。建設業者ごとに異なるステーションの設計にも標準仕様を設ける。建設費用を、現在の4億6000万円から2020年までに2億円程度にまで抑えたい考えだ。そのためステーション運営費用に助成金を出すことも検討する。

 また、トヨタのFCV発表を受けて、政府は水素を燃料とするFCVの普及に向けた購入時の補助金制度を導入の検討に入った。当面700-1000万円程度とされる車両価格に対し、1台あたり200万~300万円の補助金を出すという試案である。FCVは、走行中に水しか排出しない「究極のエコカー」とされるが、発売当初の価格は割高となる。トヨタでも普及を促進するには「消費者の負担は500万円程度が望ましい」と見ており、経産省は今夏の来年度予算の概算要求に補助金制度の概要を盛り込む。

 政府としては2015年をめどに、普及型FCVの価格をハイブリッド車(HV)並みの1台200-300万円台まで引き下げたい考え。低価格化のカギは量産化によるコスト削減が必須だ。

 販売で先行しているエネファームなど家庭用燃料電池で実施している40万円程度購入補助金も2015年度まで続ける予定だ。こちらも輸出なども含めたに販売増で、2020年に現行価格の半分の70万~80万円、2030年には3分の1の50万~60万円まで下げることを目標とする。

 2030年以降は、水素燃料による大型発電所の稼働も見込む。石油や天然ガスの代わりに水素を燃やして発電タービンを稼働させる技術の開発を進める。発電には大量の水素が必要なため、輸送や貯蔵など周辺技術についても開発を支援するという。

 また、燃料電池とは縁が無いと思える業界でもFCVの普及に注目して事業の拡大を狙っている。その業界のひとつは「貴金属業界だ。燃料電池の電極の触媒として欠かせない素材として業界が扱うプラチナに注目が集まっている。貴金属会社は、これまでも排気ガス浄化関連機器の触媒などで自動車産業を支えてきたが、生産の海外移転で国内需要は減り続けている。

 しかし、国内大手の田中貴金属工業では、宝飾品を含んだ同社の売上高の70%が、こうした工業用製品によるものだ。最先端技術の詰まったFCVは日本国内で生産されることは間違いない。そこで工業用プラチナ需要に期待が集まっている。田中貴金属は前出のエネファーム用の触媒で9割を超えるシェアを握っているとされる。FCV量産を睨んで、同社は10億円を投じて神奈川・平塚に燃料電池向け触媒工場を新設。昨年10月から量産体制を敷いた。

 燃料電池車を巡って電気を蓄える電池の開発競争も激しく、日立マクセルやパナソニックAIS社、GSユアサなどのリチウムイオン電池メーカーだけではなく、FCVでは搭載が必須といわれる充電&放電のスピードが速いコンデンサーの一種であるキャパシタ生産などでも、TDKなどが参入してしのぎを削っている。(編集担当:吉田恒)