9月10日は世界自殺予防デーだ。それにちなみ、日本では9月10~16日の一週間は自殺予防週間とされている。世界保健機関(WHO)によると、2012年の自殺者人口は、世界で約80万4千人にも上るという。
世界的に自殺者の割合は中低所得国に多く、高齢者を中心に、貧困による生活苦や健康上の理由が多くなっている。一方で問題視されているのが、国を問わず15~29歳の若い世代の自殺が増えていることだ。世界的には若い世代の自殺は、交通事故死に次ぐ死亡理由第2位となっている。
日本の状況に目を向けてみよう。12年の日本の自殺者は約2万9千人。理由は「健康問題」が1位で、続いて「経済・生活問題」、さらに「家庭問題」や「勤務問題」となっている。世界の状況と同じく、若い世代の自殺率が上昇していることが大きな問題だが、それに関連してもう1点気になるのが、若い世代の「経済・生活問題」、「勤務問題」を理由とした自殺の増加だ。
07年頃を境に、若い世代の自殺理由として「経済・生活問題」、「勤務問題」が急増している。「勤務問題」は仕事の過労やストレスによるもので、「経済・生活問題」も詳しい内訳をみると、「就職失敗」や「進路に関する悩み」といった働くことに関連するものが多くを占めている。若い世代を取り巻く労働環境の悪化が、影を落としていると言えるのではないだろうか。
安倍首相は、「アベノミクスによって経済は好転している」と毎日のように口にしている。確かに大企業や都市部にはそうした兆しは見られる部分もあるが、一方で貧富の格差、労働格差は広がり、低所得で苦しい労働を続け、将来の希望を見失う人が増えているのも確かだろう。強い日本を取り戻すのはけっこうだが、それは人の生活や精神の安定、生命を無視してまで行われてはならない。
自殺を減らすためにできることは何か、というのは非常に難しい問いだ。月並みではあるが、苦しむ人に対し「あなた自身に責任はない」と言って話を聞いてあげられる存在が必要だろうし、さらに環境を変える(例えば仕事で悩んでいるなら休職や退職をすすめ、その後もサポートする)ことの具体的な手助けも必要だろう。だから、苦しんでいる人は、とにかく誰かに頼ってほしい。今仕事をやめたら生活が立ち行かない、と悩んでしまう場合もあると思う。しかしとにかく「今、死なない」ことが最重要だ。その先のことは、死に囚われた状況を脱してから考えたって決して遅くはない。
周りの人間も「本人の責任」を問う前に、まず自殺を考えるほどの苦しい環境からその人を逃がしてあげてほしい。仮にその人自身に責任があったとしても、それを問うのだって死に囚われた状況を脱してからだって遅くはない。
どうしても治せない病気や防ぎようのない事故は存在する。しかし、自殺は止めることができるのではないだろうか。少なくともそう信じたい。(編集担当:久保田雄城)