京都大学らの研究グループは、放射線や抗がん剤を用いたがん治療で、精子の元になる精子幹細胞のDNAがダメージ受けて起こる男性の不妊症について、それを防げる可能性がある研究報告を2014年9月19日に発表した。
最近の抗がん剤治療では、小児がんの7割以上の患者が5年以上生存し、このうちの約3割が不妊症となることが知られている。成人であれば、がんの治療前に、精子を精子冷凍保存して、不妊症になっても子どもを作れる道があるが、小児の場合には、精子の保存ができないので、放射線や抗がん剤による不妊症は深刻な問題となっている。小児がんは、現在、患者数約16,000人、毎年約2,500人が発症しているとされる。
普通の細胞の場合は、放射線や抗がん剤でDNAがダメージを受けても、その部分が修復されるが、精子幹細胞の場合、このメカニズムが働かないので男の子どもでは、精子が欠乏し不妊症になることが多いとされてきた。
しかし、今回、研究グループは、従来考えられていたメカニズムではないことを発見、さらに、遺伝子操作を行うことで、放射線や抗がん剤に対する精子幹細胞のDNAダメージに対する抵抗性が3~8倍強くなるできることがわかった。このことは、将来、精子幹細胞のDNAダメージによる不妊症の改善に応用できる可能性を示すものである。
なお、華々しく発表された万能細胞のSTAP細胞は挫折というより、もともと存在しなかったと思われることが、明らかになりつつあるが、ヒトのES細胞やiPS 細胞からの生殖細胞(精子、卵子)の作成は、慶応大学などをはじめいろいろな研究機関で研究が着々と進んでいる。現状ではiPS細胞などから、成熟した生殖細胞を作ることは難しいが、13年1月には、同じ京都大学で、ヒトのiPS細胞から、生殖腺(精巣、卵巣)組織再生につながる中間中胚葉の分化誘導に成功したとの研究成果も発表されており、十分、生殖細胞(精子、卵子)を得ることが可能になると考えられている。
こちらの場合は、小児だけでなく、最近の高齢出産による卵子の老化による不妊の増加にも対応でき少子化の歯止めの期待が持てる。どちらのアプローチも成功して欲しいものである。(編集担当:阪木朱玲)