メンテナンスフリーを1980年代に実現した自動車用スパークプラグ。今またそこに革命が

2014年11月05日 09:13

SPARKPLUG

チップに使用する白金の量はクライアントが選定するが、田中貴金属工業は、材料コストを5割削減した場合でも、本製品がプラチナ合金の無垢材と同じパフォーマンスを発揮できることを実験で確認したという

 宝飾店の銀座・田中貴金属などを田中貴金属グループを展開する田中貴金属工業が、自動車エンジン用スパークプラグの外側電極材として、プラチナ合金とニッケルをクラッド(異種金属接合)したチップ(本製品)を2015年1月から評価サンプル提供を開始すると発表。2014年11月11日(火)から11月14日(金)まで、ドイツ・ミュンヘンで開催される展示会「electronica 2014」に展示する。

 自動車エンジンなどに用いられるスパークプラグの放電部となる電極には、長寿命化を図るために、1980年代後半からプラチナ合金チップが使われている。このプラチナ電極のスパークプラグを使うことで、自動車メンテナンスにおいて「プラグ清掃」と「プラグ交換」から解放された歴史がある。現在の自動車で、プラグ交換は、ほぼあり得ない。エンジンルームを眺めてもプラグコードすら見ることは出来ない。

 その登場当時の従来型プラチナプラグはチップ全体がプラチナ合金の無垢材だった。が、田中貴金属が今回発表した本製品は、クラッド技術を活用することで、放電に寄与する部分にだけプラチナ合金を使用し、放電に寄与しない部分を電極の台座と同じニッケルで構成する。この結果、従来製品と同じパフォーマンスを保有しながら、材料コストを最大で50%削減することができる。

 現在の自動車のパワートレーン開発は、ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)、そしてその複合型であるプラグインハイブリッド車(PHV)など、日本メーカーが先行する恰好で二酸化炭素排出規制などの環境規制に対応してきた。が、一方で欧州メーカーは、ガソリンエンジン直噴化とターボなど過給器によるパワーアップを組み合わせて排気量を引き下げる“ダウンサイジング”という手法で環境規制に対応してきた。

 クルマの燃費向上とCO2排出量削減など重要な課題を解決する日本の技術が詰まったHVやEVだが、問題はコスト高だ。最新の小型HVでも一般的な同クラスのガソリン車に比べると30-50万円ほど高くなる。

 ところが、ガソリンエンジン+直噴ターボ採用なら数万円のアップで対応可能だ。こうした内燃機関では、ガソリンに着火するスパークプラグに対する要求電圧が高く、これまで以上の耐久性が求められる。一般的には、電極のサイズアップでプラグの耐久性を向上させるが、この方法だとプラチナの使用量が増えるため、コストアップが障害となる。

 そのため、多くの長寿命スパークプラグは、外側電極にプラチナ合金チップを採用することで、電極の高い耐久性を確保している。が、プラチナ合金の無垢材を電極の台座に溶接すると、接合界面に台座のニッケルとプラチナ合金が溶融した厚い合金層が数100um(マイクロメートル/ミクロン)にわたって形成され、放電に寄与しない溶接部に余計なプラチナ付くというという問題が起きていた。

 ところが同社新製品は、白金合金とニッケルがフラットに固相接合されたクラッドチップで、接合信頼性を確保するために必要な20~30 umの薄い拡散層があらかじめ形成されているので、プラグ製造者は本製品を外側電極に組み付ける際、本製品のニッケル面と台座を溶接するだけ。つまり、必要なのはニッケル同士の溶接であり、放電に寄与しない溶接部に加工が面倒なプラチナは存在しない。加えて、プラチナ使用料が非常に少ない。つまり大幅なコストダウンに寄与する。

 田中貴金属では本製品の開発にあたり、2010年から大阪大学マテリアル生産科学専攻藤本公三教授、福本信次准教授と共同で、接合のプロセスウィンドウや、生産ラインでの接合モニター因子などの接合条件についての研究を行ない、本接合方法の実用性を確認してきたという。またクライアントのプラグ設計と生産プロセスに合わせた製品形状、寸法に対応も可能だという。同社では本製品において年間で約20億円の売上を見込んでいる。